EP 40
『ナウいBARと、絶望の身内遭遇率』
決戦の地(合コン会場)は、アルニア公爵領の裏路地にひっそりと佇む、隠れ家的な『BARダイニング・アルカディア』だった。
間接照明が照らすムーディーな店内。ジャズが流れ、カウンターには磨き上げられたグラスが並ぶ。
マモルはキョロキョロと店内を見渡した。
「へぇ……アルニアにこんな所が有ったのか? 領主の俺も知らなかったぞ」
「うむ。最近見つけたのだ。どうだマモル、『ナウい』場所だろう?」
サルバロスがドヤ顔で言い放った。死語である。
彼は今日のために新調した、少し派手な柄シャツを着て、整髪料で髪を固めていた。
「『ナウい』……久々に聞きましたな」
デュラスは漆黒のタキシードを完璧に着こなし、既に常連のような風格で水を飲んでいる。
「しかし、俺達よりアルニアの店に詳しくなっているな、元魔王様は」
「隠居の特権よ。……おっ、そろそろ時間だぞ。心してかかれよ、お前たち」
カランコロン♪
ドアベルが鳴った。
「来たぞ! 天使族と、獅子耳族と、鬼人族の美女たちが!」
サルバロスが立ち上がり、満面の笑みで入り口を迎えた。
マモルも緊張で生唾を飲み込む。どんな美女が来るのか――。
「失礼します……ここかしら?」
現れたのは、三人の女性だった。
一人は、プラチナブロンドの髪をなびかせた、神々しい美女(天使)。
一人は、見慣れた銀髪の元天使(居候)。
そして最後の一人は、愛くるしい笑顔の聖女。
「…………ん?」
サルバロスの笑顔が凍りついた。
マモルの心臓が止まった。
そこにいたのは、天使族族長ヴァルキュリアと、エルミナと、フィリアだった。
「な、何!? 聞いて居ないぞォッ!?」
サルバロスが叫ぶ。獅子耳族は? 鬼人族は? なぜ身内ばかりなんだ!?
「エ、エルミナとフィリアと……そちらの方は……誰だ?」
マモルが震える声で尋ねる。初対面の美女だが、纏っているオーラがエルミナの比ではない。
「えっと……」
エルミナが気まずそうに手を挙げた。
「こちらは、私の元上司の……天使族族長、ヴァルキュリア様です」
「ぞ、族長ォォッ!?」
マモルとサルバロスが同時にのけぞる。
ヴァルキュリアは規律正しく一礼した。
「初めまして。ヴァルキュリアと申します。……何でも、今日の飲み会に参加予定だった部下の天使が、急に『腹痛』を起こしまして」
ヴァルキュリアはこめかみをピキピキとさせながら説明した。
「『先輩、後はお願いします! 素敵な殿方との飲み会らしいので!』と言い残して早退したものですから……私が代理で参りました」
(……それ、絶対に仮病で押し付けられただけだろ!)
マモルは心の中でツッコんだ。部下に逃げられた上司が、代打で合コンに来る。なんという悲劇。
「そ、そうですか……。で、なんでエルミナが?」
「私はヴァルキュリア様に『一人では心細いから』と、強制的に連行されまして……」
エルミナが遠い目をする。元上司に逆らえるはずがない。
「じゃ、じゃあ……フィ、フィリアは?」
マモルが一番恐ろしい質問をする。
フィリアはニコニコと笑っていた。その笑顔の裏に何があるのか、マモルには読み取れない。
「私? エルミナに泣きつかれて、『人数が足りないから一緒に来て! 美味しいご飯食べられるから!』って頼まれたの」
フィリアはマモルの隣にストンと座り、腕に抱きついた。
「まさか、マモルがいるなんて奇遇ね~♡ ねぇマモル? 『合コン』ってなぁに? 美味しいの?」
「ヒィッ……!」
純粋な問いかけが、鋭利なナイフのようにマモルの脇腹に突き刺さる。
「ち、違うんだフィリア! これはサルバロスが! 俺は付き合いで!」
「ふふっ、冗談よ。ご飯食べましょ?」
フィリアはメニューを開き始めた。
サルバロスは頭を抱えてテーブルに突っ伏している。
「終わった……。俺の『ナウい』出会いが……ただの家族会議になってしまった……」
デュラスだけが、涼しい顔でヴァルキュリアにグラスを差し出した。
「お初にお目にかかります、ヴァルキュリア殿。……ご苦労が多そうですな。まずは乾杯といきませんか?」
「……ええ。頂きますわ。……はぁ」
ため息をつく美人上司。
こうして、ときめきゼロ、身内ネタ100%の「地獄の合コン」が幕を開けた。




