EP 39
『元魔王の合コン作戦と、男達のプライド』
平和な昼下がりのリビング。
コタツの上には、スルメとミカン、そしてマモルが異世界通販で取り寄せた『週刊プレイボゥイ(地球版)』が広げられていた。
「合コンだと?」
マモルは耳を疑った。
その単語を発したのは、あろうことか元魔王サルバロスだったからだ。
「そうだ、マモル。この雑誌に書いてある」
サルバロスは雑誌の袋とじ企画『春の合コン必勝テクニック!』のページをバン!と叩いた。
「男女が酒を酌み交わし、親睦を深め、あわよくばお持ち帰りする……。このような効率的かつ享楽的な出会いのシステムがあるとは! 素晴らしいではないか!」
「……元魔王様ともあろう方が、何を浮ついたことを」
横で新聞を読んでいたデュラスが、呆れ果てて溜息をつく。
しかし、サルバロスは本気だった。目が少年のように輝いている。
「そ、それで……面子は? 誰が行くんだ?」
マモルが恐る恐る尋ねる。
まさか、オークやゴブリンを連れて行くわけにはいかないだろう。
「うむ。俺と、マモルと、デュラスで行こうではないか」
「な、何を馬鹿な事を言われるのか」
デュラスが新聞を閉じた。
「私はパスだ。元魔王様とは言え、そのような軟派な場に行けるか。私の美学に反する」
「あ、相手は? 女の子の種族とか……」
マモルが一番重要な点を確認する。
サルバロスはニヤリと笑い、ポケットからメモを取り出した。
「うむ。イガロスに手配させた。『天使族』と『獅子耳族』と『鬼人族』の、選りすぐりの麗しい娘達だそうだ」
「……ッ!」
マモルは冷や汗をかいた。
(……天使族? 獅子耳? 鬼人? これ、外れなのか当たりなのか……いや、それ以前にこの事を知られたら、フィリアやエルミナに何て言われるか!)
特にエルミナは元・最高位天使だ。同族のネットワークでバレる可能性が高い。
これは「死亡フラグ」ではないか?
「私も遠慮しておこう。……フィリア達に殺されたくない」
マモルが辞退しようとすると、サルバロスは不満げに鼻を鳴らした。
「なんだ、つまらん。……おいデュラス、貴様も来い」
「お断りします」
「デュラスよ。貴様は戦力として見ていない。ただの『数合わせ』だ」
「……なんだと?」
デュラスの眉がピクリと動いた。
サルバロスは煽るように続ける。
「貴様のような堅物は、隅っこでウーロン茶でも飲んでいればいいのだ。場を盛り上げ、女達を華麗に持ち帰るのは、このカリスマ魔王サルバロス様の役目だからな。貴様は座っているだけのカカシでいい」
ピキキッ。
デュラスの手の中で、新聞紙が握り潰された。
「……聞き捨てなりませんな」
デュラスが立ち上がった。
その背後には、かつて魔王軍最強の将軍と呼ばれた男の、どす黒い闘気が立ち昇っている。
「元魔王様とは言え……私を見くびらないで欲しいですな。このデュラス、剣の腕だけでなく、紳士としての振る舞いも超一流。……よろしい、参加しましょう」
「おっ、乗ったな?」
「数合わせ? 笑止。貴方が誰一人として口説けず、恥をかく様を見届けて差し上げましょう。その時になって泣きついても知りませんぞ?」
「望むところよ! 返り討ちにしてくれるわ!」
バチバチと火花を散らす元上司と元部下。
マモルは頭を抱えた。
「ちょ、ちょっと二人とも!? 俺は!? 俺の意見は!?」
「マモル! 貴様は幹事だ! 店の予約と会計を頼む!」
「マモル! 私の勝負服を用意しろ! 最高級のやつだ!」
「なんでだよぉぉぉ!!」
こうして、世界最強の男たちによる、ある意味で命がけの戦い(合コン)が幕を開けることとなった。




