EP 35
『竜人の決意と、倉庫の特殊部隊(S.W.A.T)』
ライブの熱狂が去った後の静けさ。
イグニスは、キラキラと輝く紙吹雪が落ちている地面を、呆然と見つめていた。
「すげぇな……パイセン……。あんなに輝いて……」
彼の脳裏には、観客を熱狂させ、光の中で歌うリーザの姿が焼き付いていた。
それに比べて、自分はどうだ。
「俺様は……俺様はなんだ? テント村で、炊き出しの豚汁食べて、毎日鳩を見つめてるだけじゃないか……!」
最強の竜人族として里を出たはずが、気づけば鳩と友達になりかけている。
悔しさと情けなさで、イグニスの拳が震えた。
「どうした? イグニス」
声をかけたのは、ライブの撤収作業を指示していたマモルだった。
イグニスは弾かれたように顔を上げ、マモルに詰め寄った。
「ま、マモル様! ど、どうか! 俺様に仕事をくれ!」
「仕事?」
「ああ! 俺様だって一旗上げたいんだ! いつまでも『その他大勢』じゃ嫌だ! 俺様も……パイセンみたいに『主人公』になりたいんだよ!」
イグニスの目には、本気の炎が宿っていた。
マモルは少し考え込み、ニヤリと笑った。
「……キツイ仕事が有るが、耐えられる?」
「あぁ! 何でもする! 岩砕きでもドブさらいでも!」
「よし! ついてこい」
***
マモルが案内したのは、港湾地区の端にある古びた倉庫街だった。
窓ガラスは割れ、看板も錆びついている。煌びやかなアルニアの街並みとは対照的な場所だ。
「ここは……? 廃墟か?」
「いや、『S.W.A.T』本部さ」
マモルが錆びた鉄扉を押し開ける。中は薄暗く、埃っぽい匂いがした。
「す、すわっと?」
「ま、警察って言えば良いのかな? まだ予算が降りなくってね、建物はボロいけど」
マモルは倉庫の中央にある、急ごしらえの作戦テーブルに手をついた。
「騎士団はあくまで『軍隊』だ。戦争には強いが、街中で暴れる犯罪者を捕まえたり、人質を救出するには小回りが効かなくてね。それに、火力が強すぎて街を壊しちゃう」
「……なるほど(俺も門を壊したしな)」
「だから、軍隊とは違う、対犯罪者・対テロリスト専門の特殊部隊を作ろうと思ってたんだ」
その時、倉庫の奥からカツカツと足音が響いた。
現れたのは、レオパルド騎士団長だ。彼はいつもの煌びやかな鎧ではなく、動きやすい黒いタクティカルベスト(試作品)を身に着けていた。
「マモル様? どうされたのですか? こんな夜更けに」
「よお、レオパルド。S.W.A.Tに良い人材を連れてきた」
マモルがイグニスを示す。
「イグニスだ。やる気と体力だけは有り余ってる」
「よ! よろしくお願いします! 俺様はイグニスだ!」
イグニスが直立不動で頭を下げる。
レオパルドは鋭い獣の瞳で、イグニスの身体つきをじっくりと品定めした。
太い首、強靭な四肢、そして竜人特有の頑丈な鱗。
「ほう、竜人族か……」
レオパルドは髭をさすり、満足げに頷いた。
「悪くない。最前線でバリスティック・シールド(重盾)を持たせ、突入させるにはうってつけだ。ドアブリーチ(扉破壊)担当……『ブリーチャー』だな」
「ぶりーちゃー?」
「ああ。一番最初に危険な部屋に飛び込み、仲間を守る壁となる役目だ。度胸と頑丈さが求められる」
「だろう? こいつならロケットランチャー撃ち込まれてもピンピンしてるよ」
マモルが笑う。イグニスは自分の拳を握りしめた。
一番最初に飛び込む。仲間の盾になる。
それは、まさしく「主人公」のポジションではないか。
「やります! そのブリーチャーってやつ!」
「よし」
レオパルドの表情が、軍人のそれから、さらに厳しい「教官」の顔に変わった。
「貴様を鍛えてやる。ただし……騎士団の訓練など生温いと思え。マモル様から教わった、この『S.W.A.T式トレーニング』は地獄より辛いぞ? CQB(近接戦闘)、人質救出、爆発物処理……覚悟しろ」
「あ、ありがとうございます! 望むところだ!」
「いい返事だ! では早速、その辺のタイヤを腰につけてランニングだ! 行けェッ!」
「イエッサー!!」
古びた倉庫に、イグニスの野太い声が響く。
鳩を見つめていた無職の竜人は今、街の平和を守る「特殊部隊員」としての第一歩を踏み出した。




