表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/120

EP 34

『覚醒、強欲の歌姫グリード・ディーヴァ

公園前に設営された、マモル特製の野外ステージ。

最新鋭の音響機材と、魔導照明が煌めく舞台袖で、リーザは震える手を胸に当てていた。

「わ、私が主人公……私が最高の歌姫……」

呪文のように繰り返す彼女の背中を、プロデューサーのマモルがバンと叩いた。

「よし……言ってこい! 歌姫リーザ! 世界をお前の欲望で染めてやれ!」

「はいッ!!」

リーザの瞳から迷いが消えた。

彼女はパンの耳を握りしめていた手を、今はマイクへと持ち替えて、光の中へと飛び出した。

***

「キャーッ! リーザちゃーん!」

「待ってましたー!」

観客席には、サクラ(動員された魔王軍兵士)と、噂を聞きつけた市民たち。そして、最前列にはキャルルとイグニスの姿があった。

「リーザ……いつもと違う」

キャルルが目を丸くする。

「パ、パイセン……。あの気迫、鳩と豆を取り合っていた時と同じ……いや、それ以上だ!」

イグニスがゴクリと唾を飲む。

ステージの中央に立ったリーザは、不敵な笑みを浮かべて指を突き上げた。

「ついてこい! 私が主人公だあああ! 『LOVE&MONEY』!!」

爆音のイントロがスタートした。

♪ 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ! (Fu Fu!)

♪ マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ! (Yeah!!)

キュートな振り付けと共に、リーザが歌い出す。

♪ 朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)

♪ 私はまだ眠いわ (おはよー!)

♪ 朝シャンしなきゃ (Fu!)

♪ 朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)

♪ 鏡の前で メイクをしなきゃ (魔法をかけて〜! )

「おぉ……可愛い……」

観客がサイリウムを振る。ここまでは普通のアイドルソングだ。

しかし、Bメロで空気が変わる。

♪ さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)

♪ のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)

♪ 扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)

リーザの纏うオーラが、ピンク色から黄金色へと変貌していく。

そして、サビで彼女の本性が爆発した。

♪ 今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)

♪ 全て上手くいくわ (絶対!)

♪ 愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)

リーザは客席に身を乗り出し、切実な叫びをメロディに乗せた。

♪ ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)

♪ 貴方の(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu〜!)

「だ、ダイヤと土地ーッ!?」

「キャッシュって言ったぞ今!」

観客席にどよめきが走る。だが、そのあまりにも正直すぎる欲望の開示に、魔族たちのボルテージが跳ね上がった。

「すげぇ! なんて強欲なんだ!」

「俺も土地欲しいー!」

「正直でいいぞー!」

♪ だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

♪ だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)

♪ ダーリン! (チュッ♡)

投げキッス一発。最前列のオークたちが鼻血を出して倒れる。

***

2番に入ると、歌詞はよりリアルな「生活感」を帯びていく。

♪ 夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)

♪ お腹はもうペコペコよ (ぐ〜!)

♪ スーパーのシール見なきゃ (半額!)

♪ ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)

♪ 家賃のために 節約しなきゃ (現実はシビア〜! ガマン!)

「……泣ける」

「半額シール……分かる、分かるぞ!」

庶民派の冒険者たちが涙を流して共感する。

イグニスも「パイセン、苦労してんだな……」とハンカチで目頭を押さえた。

♪ さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)

♪ 地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)

♪ マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)

♪ 今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)

♪ 全部手に入れるわ (強欲!)

♪ 夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)

リーザの瞳が、獲物を狙うサメのようにギラついた。

♪ 株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)

♪ 貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu〜!)

「株券ーッ!?」

「貢ぐ! 貢がせてくれーッ!」

「俺の城をやるーッ!」

♪ だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

♪ だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)

♪ ダーリン! (チュッ♡)

会場の熱気は最高潮に達した。

だが、ここからがマモルの仕掛けた本当のクライマックスだ。

演奏が止まり、スポットライトがリーザ一人を照らす。

リーザは、しっとりと、しかし力強く語りかけるように歌った。

♪ だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの

♪ 綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ (そうだー!!)

「その通りだー!」と女性客からの悲鳴に近い同意。

リーザはニヤリと笑い、カメラ目線で言い放つ。

♪ だから…もっともっと、愛して(課金して)ね?

♪ 覚悟はいい?

ドォォォォン!!

特効の火柱が上がり、ラスサビへ突入する。

♪ 世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)

♪ 全部抱きしめるわ (最強!)

♪ 愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)

♪ ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)

♪ 貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)

♪ だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

♪ だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)

♪ ダーリン! (チュッ♡)

(ジャーン! …ジャン!)

フィニッシュと共に、スピーカーから(チャリーン♪)というレジスターの音が響き渡った。

静寂。

そして――。

「うおおおおおおおおおおおおッ!!!」

アルニア公爵領が揺れるほどの大歓声。

おひねりの金貨や宝石が、雨のようにステージへ投げ込まれた。

「やった……やったわ……!」

リーザはステージの上で、降り注ぐ金貨の雨を全身で浴びながら、恍惚の表情で両手を広げた。

「皆様! 愛していますわ! そして皆様のお金も愛していますわーッ!」

これぞ、新時代のアイドル。

欲望を隠さないその姿は、あまりにも清々しく、神々しかった。

舞台袖で、マモルは満足げに頷いた。

「計画通り。……さぁ、集金アンコールの時間だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ