EP 34
『覚醒、強欲の歌姫』
公園前に設営された、マモル特製の野外ステージ。
最新鋭の音響機材と、魔導照明が煌めく舞台袖で、リーザは震える手を胸に当てていた。
「わ、私が主人公……私が最高の歌姫……」
呪文のように繰り返す彼女の背中を、プロデューサーのマモルがバンと叩いた。
「よし……言ってこい! 歌姫リーザ! 世界をお前の欲望で染めてやれ!」
「はいッ!!」
リーザの瞳から迷いが消えた。
彼女はパンの耳を握りしめていた手を、今はマイクへと持ち替えて、光の中へと飛び出した。
***
「キャーッ! リーザちゃーん!」
「待ってましたー!」
観客席には、サクラ(動員された魔王軍兵士)と、噂を聞きつけた市民たち。そして、最前列にはキャルルとイグニスの姿があった。
「リーザ……いつもと違う」
キャルルが目を丸くする。
「パ、パイセン……。あの気迫、鳩と豆を取り合っていた時と同じ……いや、それ以上だ!」
イグニスがゴクリと唾を飲む。
ステージの中央に立ったリーザは、不敵な笑みを浮かべて指を突き上げた。
「ついてこい! 私が主人公だあああ! 『LOVE&MONEY』!!」
爆音のイントロがスタートした。
♪ 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ! (Fu Fu!)
♪ マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ! (Yeah!!)
キュートな振り付けと共に、リーザが歌い出す。
♪ 朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)
♪ 私はまだ眠いわ (おはよー!)
♪ 朝シャンしなきゃ (Fu!)
♪ 朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)
♪ 鏡の前で メイクをしなきゃ (魔法をかけて〜! )
「おぉ……可愛い……」
観客がサイリウムを振る。ここまでは普通のアイドルソングだ。
しかし、Bメロで空気が変わる。
♪ さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)
♪ のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)
♪ 扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)
リーザの纏うオーラが、ピンク色から黄金色へと変貌していく。
そして、サビで彼女の本性が爆発した。
♪ 今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)
♪ 全て上手くいくわ (絶対!)
♪ 愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)
リーザは客席に身を乗り出し、切実な叫びをメロディに乗せた。
♪ ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)
♪ 貴方の愛で生きていける (Fuuu〜!)
「だ、ダイヤと土地ーッ!?」
「キャッシュって言ったぞ今!」
観客席にどよめきが走る。だが、そのあまりにも正直すぎる欲望の開示に、魔族たちのボルテージが跳ね上がった。
「すげぇ! なんて強欲なんだ!」
「俺も土地欲しいー!」
「正直でいいぞー!」
♪ だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
♪ だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)
♪ ダーリン! (チュッ♡)
投げキッス一発。最前列のオークたちが鼻血を出して倒れる。
***
2番に入ると、歌詞はよりリアルな「生活感」を帯びていく。
♪ 夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)
♪ お腹はもうペコペコよ (ぐ〜!)
♪ スーパーのシール見なきゃ (半額!)
♪ ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)
♪ 家賃のために 節約しなきゃ (現実はシビア〜! ガマン!)
「……泣ける」
「半額シール……分かる、分かるぞ!」
庶民派の冒険者たちが涙を流して共感する。
イグニスも「パイセン、苦労してんだな……」とハンカチで目頭を押さえた。
♪ さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)
♪ 地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)
♪ マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)
♪ 今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)
♪ 全部手に入れるわ (強欲!)
♪ 夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)
リーザの瞳が、獲物を狙うサメのようにギラついた。
♪ 株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)
♪ 貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu〜!)
「株券ーッ!?」
「貢ぐ! 貢がせてくれーッ!」
「俺の城をやるーッ!」
♪ だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
♪ だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)
♪ ダーリン! (チュッ♡)
会場の熱気は最高潮に達した。
だが、ここからがマモルの仕掛けた本当のクライマックスだ。
演奏が止まり、スポットライトがリーザ一人を照らす。
リーザは、しっとりと、しかし力強く語りかけるように歌った。
♪ だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの
♪ 綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ (そうだー!!)
「その通りだー!」と女性客からの悲鳴に近い同意。
リーザはニヤリと笑い、カメラ目線で言い放つ。
♪ だから…もっともっと、愛して(課金して)ね?
♪ 覚悟はいい?
ドォォォォン!!
特効の火柱が上がり、ラスサビへ突入する。
♪ 世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)
♪ 全部抱きしめるわ (最強!)
♪ 愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)
♪ ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)
♪ 貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)
♪ だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
♪ だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)
♪ ダーリン! (チュッ♡)
(ジャーン! …ジャン!)
フィニッシュと共に、スピーカーから(チャリーン♪)というレジスターの音が響き渡った。
静寂。
そして――。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!!」
アルニア公爵領が揺れるほどの大歓声。
おひねりの金貨や宝石が、雨のようにステージへ投げ込まれた。
「やった……やったわ……!」
リーザはステージの上で、降り注ぐ金貨の雨を全身で浴びながら、恍惚の表情で両手を広げた。
「皆様! 愛していますわ! そして皆様のお金も愛していますわーッ!」
これぞ、新時代のアイドル。
欲望を隠さないその姿は、あまりにも清々しく、神々しかった。
舞台袖で、マモルは満足げに頷いた。
「計画通り。……さぁ、集金の時間だ」




