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EP 31

『音速の流星脚と、戦闘後のスーパー銭湯』

鬱蒼とした森の中。

鳥のさえずりをかき消すように、軽快なアップテンポのポップスが、キャルルのイヤホンから漏れ出していた。

「さぁて……お仕事開始♪」

彼女は魔導通信石に繋がれたワイヤレスイヤホンをトントンと叩き、ノイズキャンセリングをオンにした。

外界の雑音は消える。聞こえるのはビートと、自身の鋭敏な聴覚が捉える「敵の音」だけ。

ヒュン、ヒュン。

愛用のダブルトンファーを指先でクルクルと回しながら、長い兎耳をピクリと動かす。

(……北北東、距離300。重い足音、鼻息の荒さ……ビンゴ)

「あっちね」

キャルルは地面を蹴った。

次の瞬間、彼女の姿はブレて消えた。爆発的な加速で木々の間を縫うように疾走する。

「みっけ」

開けた岩場に出ると、そこには通常の個体の二倍はある、赤黒い皮膚のオーガ変異種がいた。

「ガアアアアッ!!」

侵入者に気づいたオーガが咆哮し、丸太のような巨大な棍棒を振り回す。風圧だけで木が折れるほどの剛力だ。

だが、キャルルはフフンと鼻で笑った。

「吠えたって駄目なんだから♪」

ブンッ!

振り下ろされた棍棒に対し、キャルルは逃げずにトンファーを斜めに構えて受け流した。

衝撃を殺し、さらに回転の勢いを利用して懐へ潜り込む。

「月影流……破衝撃はしょうげきッ!!」

トンファーの先端に闘気を一点集中させ、オーガの脇腹へ突き込む。

ボキボキィッ!!

「ガ、ガア……ガアアア!?」

肋骨が砕ける生々しい音が響き、オーガが苦悶の声を上げてたたらを踏む。

しかし、キャルルの攻撃はあくまでセットアップだ。

「決めるわ!」

彼女はトンファーを収納し、バク転で距離を取った。

そして、マモルマートで購入したお気に入りの安全靴のソールに仕込んだ、『雷竜石らいりゅうせき』のスイッチを入れる。

バチバチバチッ……!

靴底から紫色の稲妻が迸り、キャルルの両足を包み込む。

「行くよ……!」

クラウチングスタートの構え。

筋肉が収縮し、限界までバネを溜める。

「私は――音速を超える!!」

ドォォンッ!!

大気が悲鳴を上げた。

ソニックブーム(衝撃波)を置き去りにし、キャルルはマッハ1の壁を突破した。

紫電の矢となった彼女は、オーガの遥か頭上へと跳躍する。

空中で身体を捻り、前方一回転。

遠心力、重力、闘気、そして雷撃。全てのエネルギーを右足の裏一点に収束させる。

背景には満月(の幻影)が浮かぶ。

「でえええい!! 超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)ッ!!」

空から降る雷の流星。

オーガが顔を上げた時には、もう遅かった。

ドガガガガアアアアアン!!!

「ギィヤァァァァ……!?」

閃光が弾け、オーガの顔面が陥没どころか崩壊する。

巨体は黒焦げになりながら、砲弾のように吹き飛び、岩盤にめり込んで絶命した。

土煙が晴れると、そこには着地ポーズを決めたキャルルが涼しい顔で立っていた。

「ふぅ。お~わり♪」

彼女は靴の電気をオフにし、パンパンと服の埃を払った。

タイムはカップラーメンが出来上がるよりも早い。

「ん~、ちょっと汗かいちゃった。帰ったら『マモルの湯(スーパー銭湯)』でサウナ入って帰ろっと」

キャルルは鼻歌交じりに魔法ポーチを開き、巨大なオーガの死体をポンと収納した。

そして再びイヤホンの再生ボタンを押すと、軽快なステップで森を後にするのだった。

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