EP 9
アルニア村での生活にも慣れてきたある日の休日。
リビングで寛ぐ真守に、フィリアが目を輝かせて提案を持ちかけた。
「ねえマモル、狩りに行かない?」
「狩り? 俺は別に戦うのは専門外だぞ?」
「違うの! マモルが出す『あの豆』……えっと、『セツブン・ビーンズ』だっけ? あれを撒くと、獲物が面白いように掛かるの! 罠も設置しやすいし!」
フィリアが言うのは、真守がポイント交換で出した「福豆(炒り大豆)」のことだ。
地球産の豆は香ばしく、魔獣や動物たちにとっては抗いがたい極上の香りを放つらしい。
「そうか~……。まあ、ポイントも貯めたいし、晩飯の足しにするか」
「うん! 今日は良い獲物がかかってないかな~」
二人は狩猟道具をまとめ、村外れの森へと向かった。
◇
森の奥、獣道が交差する開けた場所。
真守はポイント交換で出した「特大の竹籠」を、つっかえ棒で斜めに支え、長い紐を結びつけた。いわゆる原始的な「あんどん罠」の巨大版だ。
「よし、仕掛けは完了だ」
「マモル、餌をお願い!」
真守は袋から、香ばしい匂いを放つ『福豆』と、奮発して出した『バターピーナッツ』を罠の下にたっぷりとばら撒いた。
「これなら一撃だよ。匂いがもう美味しいもん」
フィリアがゴクリと喉を鳴らす。
二人は風下にある茂みに隠れ、息を潜めてその時を待った。
◇
1時間後。
フィリアの目が鋭く細められた。スキル『鷹の目』が発動する。
「……来た。白い影。すごく速いよ」
「ウサギか? それとも白狐か?」
「分からない……けど、一直線に豆に向かってる!」
ガサガサッ!
茂みが揺れ、白い影が猛スピードで罠の下に飛び込んだ。
その影は、夢中で地面の豆を貪り始めたようだ。
「今だマモル!」
「よし……デカい! 大物だ!」
真守は渾身の力で紐を引っ張った。
バタンッ!!
巨大な竹籠が落下し、獲物を完全に閉じ込める。
籠の中で、獲物がバタバタと激しく暴れる音がした。
「やった! 逃がさないぞ!」
真守とフィリアは隠れ場所から飛び出し、罠へと駆け寄った。
籠からは、聞いたことのない奇妙な鳴き声が聞こえてくる。
「わぁぁん! 助けてぇ! 私は美味しくないですぅ! 食べてもお腹壊しますよぉぉ!!」
「……はい?」
「……人の声?」
真守とフィリアは顔を見合わせた。
魔獣の断末魔にしては、あまりにも流暢で、情けない悲鳴だ。
「お、おい! 大丈夫か!?」
真守が慌てて竹籠を持ち上げる。
そこには、白いワンピースを着た金髪の美少女が、口の周りにきな粉とピーナッツの殻をつけたまま、涙目で丸くなっていた。
背中には、真っ白な翼が震えている。
「ひぐっ……うぅ……あ、ありがとうございます~……食べられるかと思いました~」
少女――エルミナは、へたり込んだままペコペコと頭を下げた。
その手には、まだしっかりと『福豆』が握りしめられている。
その時、真守の視界にシステムウィンドウがポップアップした。
ピロリン♪
[システム通知:希少種族『天使族』の救助を確認]
[善行ボーナス:HP+50,000pt 加算]
[称号獲得:天使の飼い主]
「……は?」
真守は表示された文字と、目の前のポンコツ少女を交互に見た。
「え? あんた……天使族なのか?」
「ふぇ!? そ、そうです~! 天界より舞い降りし高潔なる聖騎士、エルミナとは私のことです~!」
エルミナは立ち上がろうとして、空腹でよろけた。
翼がバサリと広がり、フィリアが「わあ、綺麗……」と感嘆の声を上げる。
「聖騎士……ねぇ」
真守は呆れながら、彼女の口元についた食べかすを指差した。
「高潔な騎士が、なんで俺の撒いた豆を盗み食いして罠にかかってるんだよ」
「盗み食いではありません! 森の恵みだと思って……ここ数日、公園の鳩と豆の奪い合いに負け続けて、お腹が空いてて……」
グゥゥゥゥ……。
エルミナの腹の虫が、森に盛大に響き渡った。
「……フィリア」
「うん、マモル。連れて帰ろうか。このままだと、本当に野垂れ死んじゃうよ」
こうして、真守のマイホームに、新たな(そして非常に食費のかかりそうな)同居人が増えることになった。
狩りの成果はゼロだったが、代わりに「天使」を拾ってしまったのだった。




