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EP 29

『月兎の優雅な朝、歌姫の天然水(雨)』

高級マンション『メゾン・ド・マモル』の一室。

朝日が差し込む部屋で、月兎族のキャルルは幸せな夢の中にいた。

「むにゃ……人参畑……全部わたしの……」

彼女は自身の背丈ほどもある、巨大な「人参抱き枕」(マモルマートで購入)に力一杯抱きつきながら、目を覚ました。

「う~ん、よく寝たぁ」

キャルルは枕に顔をうずめて深呼吸すると、パジャマを脱ぎ捨てた。

着替えたのは、動きやすいオーバーサイズのパーカーに、スウェットパンツ。近衛騎士の鎧とは違う、アルニアの若者らしいラフなスタイルだ。

あくびを噛み殺しながら洗面所へ向かうと、先客がいた。

「あ、リーザ。おはよ~」

「あら、おはようございます。キャルルさん」

同居人の人魚族、リーザだ。

彼女は真剣な表情で、洗面器に溜めた水をバシャバシャと顔に叩き込んでいた。

「……」

キャルルはその洗面器の横にある、ベランダから回収されたとおぼしき「バケツ」を見た。昨夜は雨だった。

「……ねぇリーザ。それ、雨水だよね?」

「いいえ! これは『天空から降り注いだ、ろ過した天然水』ですわ! お肌のミネラルバランスを整えるんですの!」

リーザは顔を滴らせながら、あくまで優雅に言い張った。

(水道代をケチっているだけでは……?)とキャルルは思ったが、先輩のプライドを傷つけないよう、「ふぅん」と流した。

キャルルは隣で洗顔フォームを泡立て、顔を洗う。

そして、マモルマートのコスメコーナーで買った『保湿化粧水しっとりタイプ』と『乳液』を丁寧にパッティングした。

「ん~、もちもち。やっぱり基礎化粧は大事だよね」

「…………」

横目でチラチラと高級(に見える)化粧品を見るリーザ。彼女の手は、雨水を叩くリズムを少し早めていた。

「そ、それよりキャルルさん? 朝食は?」

リーザが話題を変える。

キャルルはタオルで顔を拭きながら答えた。

「ん? 家では要らない。駅前のファミレス**『アルニア・キング』**でモーニングセット食べるから。ドリンクバー付いてるし」

「ア、アルキン……モーニング……」

「そのあと、そのまま冒険者ギルドに行くしね。今日はクエスト頑張るぞー」

安定した収入がある冒険者(実力者)の余裕ある発言。

リーザは、戸棚の奥から取り出した透明な袋をギュッと握りしめた。中に入っているのは、パン屋の裏で貰った「パンの耳」だ。

「そ、そうですか……。外食とは優雅ですわね。私は、この……『高級小麦のクラスト・ブレッド(耳)』を頂きますので」

「そっか。じゃあ先行くね」

キャルルは玄関に座り込み、お気に入りの靴を履いた。

つま先に鉄板が入った、ゴツめの「安全靴」だ。彼女の蹴り技の威力を倍増させる、仕事道具である。

トントン、とつま先を床で鳴らす。

「よし! 今日も完璧。行ってきまぁす!」

「い、行ってらっしゃい……。お気をつけて……」

元気よく飛び出していくキャルルの背中を、リーザはパンの耳をかじりながら見送った。

「……美味しそうですわね、モーニング……」

シェアハウスの格差社会は、今朝も残酷なほど明確であった。

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