表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/118

EP 27

『王たちの釣り堀と、始祖竜の選択』

領地のはずれにある静寂に包まれた湖。

そこは、マモルが「大人の隠れ家」として整備した、知る人ぞ知る釣りスポットだ。

水面にはさざ波が立ち、一人の老竜人が静かに糸を垂れていた。

竜人族族長、ドラグニールである。

「……ふぅ。平和よのう」

そこへ、ドカドカと足音を立てずに、大柄な男が近づいてきた。

先日マモルに敗れ、晴れて「無職(隠居)」となった元魔王サルバロスだ。

「よう、元魔王殿」

「よせ。今はただの『釣り人』だ」

サルバロスはドラグニールの隣に携帯椅子(アウトドア用)を広げ、ドカリと腰を下ろした。かつて世界を震え上がらせた覇気は消え、憑き物が落ちたような顔をしている。

「気楽になったぜ。肩の荷が下りるとは、これほど空気が美味いものか。……あんたもどうだ? そろそろ隠居したらどうだ?」

サルバロスの誘いに、ドラグニールは苦笑いしてウキを見つめた。

「あぁ……ワシもそうしたいのは山々なのだがな。息子のイグニスに席を譲るには、あやつはまだ……血の気が多すぎる」

ドラグニールは遠い目をした。

「今頃、どこかの戦場で武者修行でもしておるのだろう。あやつの『熱さ』が冷めるまでは、まだまだ現役を退けぬよ」

「…………」

サルバロスは沈黙した。

彼の脳裏には、昨日テント村で見かけた光景が浮かんでいた。

公園のベンチで、虚ろな目をして鳩に豆を与えながら、「俺様なんて……俺様なんて……」とブツブツ呟いていた赤い竜人の姿を。

(……言わぬが情、というやつか。親父の夢を壊すこともあるまい)

サルバロスはあえて何も言わず、黙って自分の竿に餌をつけた。

「隣、失礼するよ」

そこへ、新たな釣り人が現れた。

新魔王にして勇者、そして公爵のマモルだ。

彼の背中には、小さな影がコアラのようにへばりついている。

「マモル~、マモル~♡」

始祖竜アルカだ。彼女はマモルの首に腕を回し、頬をスリスリと擦り付けている。

「はいはい、アルカ。危ないから座ってな」

「うん!」

マモルがパイプ椅子を出してやると、アルカはちょこんと座り、すぐにまたマモルの袖を掴んだ。

「おぉ~……アルカ様だ」

ドラグニールが感極まった声を上げ、拝むように手を合わせる。

「アルカ様がその気になれば、我が竜人族などすぐにでもお任せできるのですがなぁ。そうすればワシもコタツに専念できるものを」

「おいおい、爺さん」

サルバロスが呆れたように鼻を鳴らす。

「まだガキじゃないか。鼻水垂らしてる神様に、国を任せられるかよ」

「ふっ、浅いな元魔王よ。始祖竜様に常識は通用せん」

ドラグニールは厳かに告げた。

「あの方は『存在』そのものがことわりを超越しておる。今は幼子の姿をしているが、それは仮初め。アルカ様が望めば、瞬時に叡智を宿した成体へと成長されるのだ」

「へぇ、そうなんすね」

マモルは驚いて、隣でキャラメルを食べているアルカを見た。

「アルカ、おっきくなれるのか? すごい美人さんになったりして」

「…………」

アルカはキャラメルを口に入れたまま、マモルを見上げ、次にドラグニールを見た。

そして、ふるふると首を横に振った。

「アルカは、今のままがいい」

「ほう? 何故ですかな?」

ドラグニールが問うと、アルカは満面の笑みでマモルに抱きついた。

「だって、おっきくなったら……マモルにおんぶしてもらえないもん! アルカはマモルと一緒に居たいの! だから、ちっちゃいのがいい!」

純真無垢な理由。

「世界の統治」よりも「マモルのおんぶ」を選んだ最強の存在。

「ぶっ、ククク……だそうだ、ドラグニール」

サルバロスが腹を抱えて笑う。

「当分、竜人はあんたがまとめるんだな。隠居は遠そうだ」

「……やれやれ。あの方には敵わんわい」

ドラグニールはガックリと肩を落とし、しかしどこか嬉しそうに竿を握り直した。

湖面には三人の王(と一柱の竜神)の影が映る。

マモルの竿がしなり、アルカが歓声を上げる。

世界を動かす者たちの休日は、今日も穏やかに過ぎていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ