EP 23
『黒き軍勢の壁と、勇者への誘い』
魔王城の大回廊。
そこは、黒い鎧に身を包んだ数千の魔族兵によって完全に封鎖されていた。
槍の穂先が森のように突き出され、殺気が肌を刺す。
「……通すわけにはいかぬ! イガロス参謀の命令だ!」
隊長格の魔族が叫ぶ。
しかし、先頭を歩くデュラスは歩調を緩めることなく、冷徹な眼差しで彼らを射抜いた。
「道を空けろ。……魔族の礼儀も知らぬのか?」
「し、しかしデュラス様! イガロス様が、人間をここから先へは通すなと……!」
「くだらん」
デュラスは鼻を鳴らし、広場を埋め尽くす兵士たちを見渡した。
「イガロスの保身などどうでもいい。……貴様らとて、本能では求めているはずだ。有史以来最強の魔王サルバロスと、その魔王に喧嘩を売った人間マモル。この二人がぶつかり合えばどうなるか……見てみたいだろう?」
「……ッ!」
兵士たちの喉が鳴った。
魔族の本質は闘争への渇望。魔王の全力戦闘が見られるかもしれない――その誘惑は、参謀の命令よりも遥かに甘美で、抗いがたいものだった。
「……分かりました」
一人の兵が槍を引いた。それを合図に、黒い波が割れるように道が開かれていく。
「さぁ、通られよ! 伝説の目撃者となるがいい!」
堂々たるデュラスの背中に、エルミナが頬を染めた。
「キャー♡ デュラスさんカッコいい~! 元敵将とは思えない貫禄ですわ!」
「流石は貴族様ね! 言葉だけでねじ伏せちゃった!」
フィリアも感心して手を叩く。
マモルはデュラスの横を通り過ぎる際、短く礼を言った。
「助かるよ、デュラス」
「フン、礼には及ばん。……さて、俺に出来る事はここまでだ。後はマモル、お前の番だ」
デュラスはマモルの肩を強く叩いた。
「分かってる」
マモルは頷き、開かれた道を真っ直ぐに進んだ。
その先にあるのは、熱気と歓声が渦巻く巨大な闘技場。
***
闘技場の中央。
そこには、身の丈ほどある漆黒の『魔剣』を構え、仁王立ちする魔王サルバロスの姿があった。
マモルが足を踏み入れると、数万の観衆が一瞬で静まり返った。
「来たか……マモルよ。いや、『勇者』よ」
サルバロスが低い声で唸る。その呼び名には、侮蔑ではなく、対等な強者への敬意が込められていた。
「サルバロス」
マモルは三節根を手に、魔王と対峙した。
距離は十メートル。だが、互いの闘気がぶつかり合い、空間が歪んで見える。
サルバロスはふと、魔剣の切っ先を下げ、ニヤリと笑った。
「一応聞いておくが……俺と組まないか? マモル」
「……は?」
「俺の力と、お前の規格外の力。俺とお前が手を組めば、世界はもっと楽しい場所になる。退屈な平和も、くだらない秩序も全て壊し、刺激に満ちた世界を創れるぞ」
それは悪魔の誘惑。
だが、マモルは呆れたように肩をすくめた。
「『世界の半分をやるから仲間になれ』ってか? ……冗談だろ。俺は管理職も共同経営者も御免だね」
マモルは三節根を構え、切っ先を魔王に向けた。
「俺はただ、あの子達と美味い飯が食えればそれでいい。お前の『楽しい世界』に、俺の居場所はなさそうだ」
その即答を聞いて、サルバロスは失望するどころか、さらに深く、凶悪に笑った。
「ククク……ハハハハ! それでこそ勇者だ!」
魔剣から爆発的な魔力が噴き上がり、闘技場の空を赤黒く染め上げた。
「交渉決裂だな! ならば力で語り合おうぞ! ……来いッ!!」
「ああ、行くぞッ!!」
マモルの全身から、蒼い月光の闘気が立ち昇る。
最強と最強。
世界を揺るがす決戦の火蓋が、今、切って落とされた。




