EP 22
『決戦の朝、あるいはゲテモノグルメツアー』
魔界の最深部、常闇に包まれた魔王城。
その玉座の間で、魔王サルバロスの高笑いが轟いていた。
「フハハハハ! イガロスよ、聞け! 俺に『タイマン』で挑む奴なんて、この数百年居たか? いや、居ない!」
サルバロスは二日酔いの頭痛も忘れ、子供のように目を輝かせている。
その足元に跪くのは、魔王軍参謀イガロスだ。彼は主君の興奮を「怒り」と勘違いし、震えながら進言した。
「ま、全く……何と身の程知らずの人間でしょう。魔王様の手を煩わせるまでもございません。この全魔王軍を投入し、塵にしましょう」
イガロスの目には、残虐な光が宿っていた。人間如きに魔王が直接手を下すなど、魔族の恥。数の暴力ですり潰すのが定石だ。
しかし。
「戯けがぁッ!!」
ドォォォォン!!
サルバロスの怒声と共に、衝撃波がイガロスを吹き飛ばした。
「も、申しわけ有りませぬッ!?」
「貴様は何も分かっていない! 俺はな、この時を待っていたんだ」
サルバロスは玉座から立ち上がり、拳を握りしめた。
「魔族だの、天使だの、竜人だの……そんな種族の柵や政治に気を取られず、ただ純粋に『個』としての闘いを楽しみたかったんだ! あのマモルという男は、それを俺にくれると言ったのだ!」
「は、ははぁ……!」
「邪魔をする奴は、例え部下でも消し炭にする。……マモルか。奴なら俺を心の底から楽しませてくれるはずだ」
魔王は武者震いし、マントを翻して決闘場へと向かった。
***
一方、アルニア公爵領・マモル邸の玄関。
そこには、これから「近所のコンビニに行く」くらいの軽装で靴を履くマモルの姿があった。
「じゃあ……魔王退治に行ってくるか」
「行ってらっしゃーい! お土産よろしくね!」
見送るフィリアの第一声は、当然「食」だった。
「ねぇねぇ、魔界の美味しい物って何かな~? スイーツ?」
フィリアの問いに、元魔将軍デュラスが得意げに腕を組んだ。
「ふっ、魔界と言えば、やはり『獄炎トカゲの熟成揚げ』だろう」
「と、トカゲ……?」
「ああ。魔界の沼地で捕れたトカゲを、一ヶ月ほど樽の中で腐……いや、熟成させてな。それに地獄の激辛香辛料をたっぷりとまぶして、高温の油でカリッと揚げるんだ」
デュラスは恍惚とした表情で語る。
「噛めば『ジュワッ』と独特の酸味と発酵臭が広がり、その後に舌が焼けるような辛味が来る。……あれこそ至高の珍味だ」
一瞬、玄関の空気が凍りついた。
エルミナの美しい顔が引きつり、額に冷や汗が流れる。
「わ、わ~い……お、美味しそうな響き……ですわね……(オェッ)」
「ん? エルミナ、顔色が悪いぞ? 楽しみすぎて貧血か?」
「失礼な奴等だ。見た目は少々グロテスクだが、味わい深いのに」
デュラスは心外だとばかりに肩をすくめた。
マモルは苦笑いしながら、三節根(木製・闘気コーティング済み)を腰に差した。
「ま、何事も経験だよ。……よし、行こうか! みんな!」
「おー!」
「はいですわ(絶対に食べませんけど)!」
「フン、案内しよう」
マモル、フィリア、エルミナ、そしてデュラス。
一行は転移門をくぐり、サルバロスが待つ魔界の『大決闘場』へと足を踏み入れた。
そこには、数万の魔族の観衆と、腕組みをして仁王立ちする魔王の姿があった。
「待っていたぞ、マモルゥゥ!!」
「お待たせ。……さぁ、始めようか」
ゴングの代わりに、地獄の業火が燃え上がった。




