EP 21
『月の覚醒、蒼き輝きの三節根』
「くっ、どうすりゃ良いんだよ!? 闘気って言われても……!」
マモルは芝生の上を転がり、光獅子ラオンの鋭い爪を紙一重で回避した。
安物の木の三節根で反撃を試みるが、神獣の鋼のような筋肉には傷一つ付かず、逆に「ビイン!」と痺れが手に走るだけだ。
「グルルゥッ!」
「うわっと!」
次の一撃を躱したマモルの体勢が崩れる。絶体絶命。
その時、テラスからデュラスの低い声が響いた。
「焦るな、マモル。思い出せ」
「……え?」
「お前は、俺やエルミナ、フィリアと常に一緒に居た。この家のリビングで、同じ飯を食い、同じ空気を吸っていた。……感じていたはずだ。俺達が放つ『力』の奔流を」
マモルの脳裏に、日常の光景が蘇る。
魔王軍将軍の覇気、最高位天使の神気、そして伝説級の治癒術師の生命力。
普通の人間なら発狂しかねない濃密なエネルギーの中で、彼は平然と暮らしてきたのだ。
「確かに……心地良かったような、懐かしいような……」
「そう! あれを出せば良いの!」
フィリアが身を乗り出して叫ぶ。
「マモルは先生でしょ? 生徒の才能を引き出すみたいに、自分の中に溜め込んだ私達の力を、外に出してあげるの! 出せるよ~!」
マモルはラオンと対峙したまま、静かに目を閉じた。
恐怖を押し殺し、身体の奥底にある「熱」を探る。
(……フィリアの太陽のような温かさ……)
(……エルミナの凛とした神々しさ……)
(……デュラスの泰然とした気高さ……)
それらは彼の中で混ざり合い、渦を巻いていた。
相反するはずの神と魔と人の力が、マモルという器の中で奇跡的な調和を保っている。
「……もう少し、……もう少し……」
エルミナが祈るように見つめる中、マモルの閉じた瞼の裏で、光の渦が一つの形になった。
カッ……!
マモルが目を見開く。
「……見つけた! これが、俺の『気』だ!」
マモルが三節根を構える。
すると、ただの樫の棒が、静謐な蒼い光に包まれた。
それは太陽のように焼き尽くす赤でも、闇のように飲み込む紫でもない。
夜道を優しく、しかし確実に照らす「月光」の色だった。
「グルアアアアッ!」
ラオンがトドメの一撃を放つべく飛び掛かる。
だが、今のマモルにはその動きが止まって見えた。
「行くぞ! 月円の竜撃渾ッ!」
マモルは三節根を振り抜いた。
蒼い軌跡が夜空に浮かぶ満月のような円を描き、ラオンの鼻先に吸い込まれる。
ズパァァァァンッ!!
衝撃音と共に、光の衝撃波が突き抜けた。
武器そのものは触れていない。練り上げられた闘気の塊だけが、神獣の意識を正確に打ち抜いたのだ。
「キュ……ゥ……」
光獅子ラオンは空中で白目を剥き、そのままドサリと地面に沈んだ。完全な失神(KO)である。
静寂が戻った庭で、マモルは肩で息をした。安物の三節根は、蒼い闘気に守られ、傷一つ付いていない。
「すご~い! マモル! 今のすっごく綺麗だった!」
フィリアがパチパチと手を叩く。
「……予想以上の一撃でしたわ。神獣を一撃で気絶させるなんて」
エルミナも驚きを隠せない様子だ。
デュラスは満足げに頷き、分析した。
「恐らく、我々の闘気、神気、魔気を常日頃から浴びていて出来た、マモル独自の混合気だな。神と魔を調和させる『月』の力……ふん、お前らしい」
「はぁ、はぁ……やった……出来た……」
マモルはへたり込んだ。全身の力が抜け、指一本動かせない。
だが、スパルタ教師陣の授業は、まだ1時限目が終わったに過ぎなかった。
「よし。感覚は掴んだな。今の力を忘れないように身体に叩き込むぞ」
デュラスが指を鳴らす。
「次の魔獣を出すぞ」
「そうですね♡ 次はスピード重視の『疾風狼』でいきましょうか♡」
エルミナも杖を構える。
新たな魔法陣が展開されるのを見て、マモルは絶叫した。
「ちょ、ちょっと~!? 休憩は!? 給水タイムはァァァ!?」
「実戦に休憩など無い!」
「うわあああああああ!!」
こうして、マモルの悲鳴と蒼い月光が、アルニアの空にいつまでも輝くのだった。




