EP 18
『決闘の約束と、神々の賭け事』
マモルの宣戦布告を受け、コタツの反対側で魔王サルバロスが哄笑した。
「ハッハッハ! 大きく出たな小僧! 気に入ったぞ!」
サルバロスの体から噴き出す覇気で、部屋の窓ガラスがビリビリと振動する。
「だが、我ら魔族は『力』こそが本懐よ。口先だけでその娘を守れると思うな? これはどうしてくれる?」
サルバロスは巨大な拳を眼前に突きつけた。
マモルは眉一つ動かさず、その拳を見据えて言い放つ。
「よし、サルバロス。お前とはタイマンで決着付ける」
「ほう?」
「軍勢も、魔法もなしだ。俺とお前、サシで殴り合って……部下の魔族達の前で、その情けない面を晒してやるよ」
「――ッ! 言うようになったな!」
サルバロスは獰猛な獣のように口角を吊り上げた。
「望む所よ! 有史以来、この俺に喧嘩を売った人間は初めてよ。その心意気に免じて、受けて立とう!」
バチバチと火花が散る二人。
これにて一触即発の開戦――かと思われたが、横から気の抜けた声が割って入った。
「はーい、じゃあブックメーカー開催しまーす」
ルチアナが懐からメモ帳を取り出した。
「私、サルバロスが勝つに100万円」
「おいおい女神……。ま、そうだな。ワシもサルバロスに100万円じゃ。種族としての基本スペックが違いすぎる」
ドラグニールもエイヒレを齧りながら賭けに乗る。
圧倒的サルバロス有利。誰もがそう思う中、静かにお茶を啜っていたデュラスが手を挙げた。
「私は、マモルに100万円」
「何?」
サルバロスが元部下を睨む。デュラスは涼しい顔で続けた。
「それと……魔王様のお気に入りの、あの『魔界鉱石の特注ライター』を賭けの対象として貰いましょうか」
「な、なにィ!?」
サルバロスの顔色が変わった。
「あれはドワーフの名工に作らせた一点物だぞ! 俺のコレクションの中でもトップクラスの……!」
「おや? 魔王様が勝てば良いのでしょう? 負けるつもりですか?」
「ぐぬぬ……! よかろう! 賭けてやるわ!」
デュラスの挑発に、サルバロスがヒートアップする。
すると、キッチンからおつまみの追加を持ってきたフィリアが、楽しそうに会話に混ざった。
「あ、私もマモルに賭けるー! えっとね、賞品は……そうねぇ」
フィリアはルチアナの方を見て、目を輝かせた。
「マモルが勝ったら、ルチアナさんとお揃いのその『ジャージ』が欲しいわ! 動きやすそうで可愛いし!」
「えっ? これ?」
ルチアナが自分の芋ジャージを摘む。
「……可愛すぎだろ、フィリア」
マモルが思わずツッコんだ。女神の法衣ではなく、あえてジャージを欲しがるあたり、フィリアの感性も大物である。
「じゃ、じゃあ私はぁ……」
続いて手を挙げたのは、天使族のエルミナだ。
「マモルさんに賭けますから、勝ったら『有給休暇』を1年分下さい! ずっとゴロゴロしてたいんですぅ!」
その言葉に、ルチアナが冷ややかな視線を送った。
「は? 何言ってんのエルミナ。貴女はとっくに『懲戒解雇』されてるから、年中休暇よ?」
「……へ?」
エルミナの動きが止まる。
「そ、そんなああ!? クビ!? じゃ、じゃあ退職金下さいよ! 功労金とか!」
「無いわよそんなもの。マモルの所に行ってから、報告の一本も寄越さず音信不通だったじゃない、あんた」
「うわあぁぁぁん! 私のエリート天使ライフがあぁぁ!」
泣き崩れる元エリート天使。
その悲喜こもごもを眺めながら、マモルは自分の猪口に酒を注いだ。
「ま、決まりだな。……さて、飲むか」
「おう、飲むぞ小僧! 明日の決闘で泣きを見るのは貴様だがな!」
「負けないって言ってるだろ」
カチン。
猪口と杯がぶつかり合う。
世界を賭けた決闘の前夜祭は、こうして泥酔と博打の夜へと更けていくのだった。




