EP 17
『コタツ会談、親父の激怒』
湯気を立てる鍋と、まだ封を切られていない最高級の酒。
外は寒風が吹き荒れているが、コタツの中は温かい。
だが、その四辺を囲む者たちが放つ空気は、絶対零度のように張り詰めていた。
マモルは、目の前に座る世界の頂点――女神、魔王、竜王の三柱を静かに見据えた。
「さて……三柱の方々。酔っ払って訳が分からなくなる前に、アルカについてお話をしましょうかね」
マモルは箸を置き、穏やかだが、決して目を逸らさない強い視線で切り出した。
「彼女が何処で暮らすのが、一番幸せになるのか」
その言葉に、ルチアナがスルメを齧る手を止める。
サルバロスが不敵に口角を上げる。
ドラグニールが杯を置く。
マモルは核心を突いた。
「単刀直入に聞くけど……あんたらはアルカが欲しい。違うか?」
沈黙が落ちる。
最初に口を開いたのは、ジャージ姿の女神ルチアナだった。彼女の声からは、先ほどまでのふざけた調子が消え、冷徹な管理者の響きが混じっていた。
「ん~~……そうね。私は世界の管理者として、『イレギュラー』が起こるのが嫌なのよ。彼女の力はバランスを崩す。だから、私の監視下に置いて封印したい立場ね」
「封印、か」
マモルが眉をひそめると、次にドラグニールが重々しく腕を組んだ。
「我らは違うぞ。あの方は同胞だ。始祖竜様を我が竜人族の里にお迎えすれば、より相応しい力の使い方を教えることができる。それが彼女の誇りとなろう」
「……だからさ」
マモルはドラグニールの言葉を遮った。
「アルカは『始祖竜』じゃねぇんだ。もう、アルカはアルカだ。意思を持ってる、ただの女の子なんだよ」
その言葉を鼻で笑ったのは、魔王サルバロスだ。
「甘いな、マモル。力ある者は、その力を行使してこそ輝く。……俺は、面白ければ良い。アルカを俺の元に寄越せば、世界をもっと面白くしてやる。破壊と再生、アルカもその刺激を喜ぶさ」
「嘘を言うなよ」
マモルの声のトーンが、一段階下がった。
コタツの下で、彼の拳が強く握りしめられる。
「あんたらがそうやって、互いの正義だの欲望だので喧嘩し続けた結果が、今の戦乱の世になったんだろ? 世界を面白くするどころか、混乱させてるだけじゃないか」
「……ほう?」
サルバロスの目が細められ、強烈な殺気が部屋を満たす。
だが、マモルは怯まない。むしろ、それを押し返すほどの熱量で、彼らを睨みつけた。
「俺は怒ってるんだ」
マモルは立ち上がりはしなかったが、その魂が叫んでいた。
「あんな小さい、まだ何も知らないアルカに全部を押し付けて……自分達の都合や欲望の道具にしようとすることに、腹が立って仕方がないんだよ!」
脳裏に浮かぶのは、朝、眠そうに目を擦るアルカの顔。
不器用に箸を使ってご飯を食べる姿。
マモルの背中にしがみついてくる温もり。
「封印? 教育? 娯楽? ……ふざけるな」
マモルは三柱を指差し、言い放った。
「アルカの生き方はアルカが決める。あんたらじゃない」
部屋の空気が振動する。
ただの人間であるはずのマモルが放つ気迫に、神々が一瞬、言葉を失う。
「勝手にアルカの道を決めてんじゃねぇよ。あの子は兵器でも道具でもない。……俺の、家族だ」
マモルは一息つくと、封を切っていなかった酒瓶を掴み、ドン!とテーブルに置いた。
「話は以上だ。……文句があるなら、俺が全部聞いてやる。その代わり、アルカには指一本触れさせない」
それは、世界最強の三柱に対する、あまりにも無謀で、しかし揺るぎない宣戦布告だった。




