EP 3
『公爵閣下と、望まぬ建国ラプソディ』
「さーて、今日も一日頑張りますか」
マモルが何気なく自宅の重厚な木扉を開けた、その時だった。
ジャキッ!!
一糸乱れぬ金属音が空気を震わせた。
小鳥のさえずりが支配していたはずの庭先は、銀色の海――完全武装した騎士団によって埋め尽くされていたのだ。
「……あれ? どうしたんですか、これ」
マモルが目を白黒させていると、騎士団の最前列にいた偉丈夫、騎士団長レオパルドが一歩前へ進み出た。
「マモル公爵様に――敬礼ッ!!」
「「「はっ!!!」」」
レオパルドの号令に合わせ、百人は下らないであろう騎士たちが一斉に直立し、拳を胸に当てた。その迫力たるや、地面が揺れるほどだ。
「な、何? 敵襲!?」
背後から顔を出したフィリアが、フライパン(武装)を構えかける。
「あら、煌びやかですわね。閲兵式?」
のんきに首を傾げるエルミナ。
「いや……『公爵』と言わなかったか? 今」
デュラスだけが、その言葉の持つ意味の重さに眉をひそめた。
「レオパルドさん……えっと、公爵って何かしら? 美味しいの?」
「いえ、フィリア様。公爵とは――」
デュラスが新聞を畳み、マモルの方を見ながら重々しく告げる。
「王族を除けば最上位。実質、王の次に偉い位階だ。下手な小国の王よりも権力を持つ」
「……何それ」
マモルの顔から血の気が引いていく。
レオパルドは満面の笑み――忠誠心100%の暑苦しい笑顔で胸を張った。
「此度の始祖竜鎮静化、並びに数々の功績! ルナミス皇帝デルキア様は誠に愛でたく思い、マモル様を『公爵』に叙任するとの勅命を下されました!」
「何それ……!」
マモルの拒絶反応などお構いなしに、レオパルドは騎士団を指し示した。
「そして! この近衛騎士団は本日より、全てマモル様の手足となり働きます! さらに帝国全土より、開拓のための応援部隊や物資が続々と集まってくる手はずとなっておりますぞ!」
「ちょ、ちょっと待って! 俺はただの村人Aでいたいんだけど!?」
「もう遅いな」
デュラスが呆れたように、しかしどこか楽しげに口元を歪めた。
「これだけの兵力と資材、もはや『村作り』というより『領地経営』……いや、一国の運営に近い」
その言葉を聞いたフィリアが、パッと顔を輝かせた。
「えっ、王様の次ってことは……まぁ! 私ってばお姫様ってこと!?」
「むぅ……フィリアだけズルイですぅ! 私も『公爵令嬢』とか呼ばれたいですわ!」
「いや、君たちは既に魔王クラスの力を持ってるだろうに……」
マモルのツッコミは、女性陣の黄色い声にかき消された。
デュラスは顎を撫でながら、眼前に広がる騎士団と、その背後に控えるであろうマモルの「規格外」な仲間たちを見回した。
「ふむ。面白い。人間、魔族、天使族、そして竜……全てが住まう理想郷を作るのも、余興としては悪くないかもしれん」
「デュラスまで! 他人事だと思って……」
その時、遠くから土煙を上げて走ってくる人影があった。
村の運営を取り仕切る苦労人、ラミアスだ。彼は血相を変えてマモルの元へ滑り込んできた。
「マモル様ぁぁぁ! ひぇ~、大変です、大変なことになってますぅ!」
「ラミアス……助けてくれ、この状況を」
「それどころではありません! これだけの人数を受け入れるには、村の外を大規模に開拓しなければ! 居住区の確保、上下水道の整備、食料庫の増設……あぁ、ガンツ殿と資材の打ち合わせを急がねば間に合いませぬぅぅ!」
ラミアスは既に手帳に猛スピードで何かを書き込みながら、白目を剥きかけている。
スローライフ? 田舎暮らし?
そんな言葉は、騎士団の足音とラミアスの悲鳴と共に彼方へ飛び去っていった。
青空を見上げ、マモルは虚ろな目で呟く。
「……ちょっと現実逃避させて」
新米公爵マモル。
彼の胃痛と、理想郷建設への道は、ここから加速していくのだった。




