EP 59
Sランク昇格とダンジョン完全踏破のニュースは、瞬く間にアルニアの街を駆け巡り、その夜、マモルたちの屋敷(と庭)では盛大な祝勝会が開かれていた。
ギルドの職員、馴染みの商人、そしてフィリアの両親までもが駆けつけ、宴は最高潮に達していた。
「ガハハハッ! 飲め飲めぇ! 今日は祝い酒だぁ!」
武器屋のガンツが、樽ジョッキを片手に豪快に笑う。
マモルの作ったピザや、ダンジョン産の高級食材を使った料理が次々と運ばれ、人々は舌鼓を打つ。
そんな喧騒の中、すでに泥酔したエルフの男性――フィリアの父、ラミアスがマモルの肩に縋り付いていた。
「うっ……うっ……マモル殿ぉ……! 貴方がこれほど立派な御仁だったとは……! 是非、是非とも娘のフィリアを宜しく頼みますぞぉ……!」
「ちょ、お義父さん……じゃなかった、ラミアスさん、飲み過ぎですって」
マモルが苦笑しながら支えるが、その横から母のシャーラが涼しい顔で追撃をかける。
「あらマモルさん、主人の言う通りよ。貴方なら安心だわ。……そうねぇ、孫は3人は欲しいわね。頑張ってちょうだい?」
「お、お母さん!? お父さん!! 何を言ってるのよもう!!」
フィリアがゆでダコのように真っ赤になって叫ぶ。
「ま、まだ告白もしてない……のに……孫とか……!」
フィリアが恥ずかしさでモジモジと指を合わせる。その様子を見ていたエルミナが、悪戯っぽい笑みを浮かべてマモルの腕に抱きついた。
「あらあら~、フィリアさんは奥手ですねぇ。……じゃあ~、私が『先に』しちゃいますよ? マモル様は私の英雄ですから~」
「ちょ、ちょっとエルミナちゃん!? 抜け駆けはずるいわよ!」
「早い者勝ちですぅ~」
二人の美女がマモルを挟んで火花を散らす。
その光景を少し離れた場所で見ていたデュラスが、ワイングラスを揺らしながら呆れたように呟いた。
「ふん……。とんだハーレム男に成り下がったな、マモル」
「冷やかすなよデュラス。こっちは胃が痛いんだ」
マモルが助けを求めるようにデュラスの隣に逃げてくる。
その足元では、小さな始祖竜アルカが、小さなコップを両手で持ってストローを吸っていた。
「マ、モ、ル……。ジュース、おいしい」
「そうかそうか、美味しいか。いっぱい飲んでいいぞ~」
マモルが目尻を下げてアルカの頭を撫でる。
完全に「親バカ」の顔だ。
そんな平和な光景を見つめながら、デュラスが不意に声を潜めた。
「……言っておくがなマモル。これから大変だぞ」
「え? 何でだよ。Sランクになったし、金もあるし、安泰だろ?」
マモルがキョトンとする。
デュラスは夜空を見上げ、真剣な眼差しで告げた。
「私が記憶していれば……太古の昔、竜人族が神として神輿に担いだ始祖竜の名は『アルカ』だ。……そして今日、その幼体も自らを『アルカ』と名乗った」
「……つまり?」
「そいつは単なる同種族ではない。生まれ変わり……いや、化石の卵から時間を戻したのだから、当時の『個体そのもの』だということだ」
デュラスの言葉に、マモルの表情が引き締まる。
「これから、世界中の勢力が動き出すぞ。かつての栄光と信仰を求めて『竜人族』が。アルカの絶大な破壊の力を我が物にせんと『魔族』が。そして、アルカの力を恐れて排除しようと『天使族』が……それぞれにアルカを求めてくるだろう」
世界を滅ぼしかけた最強の存在。
その復活を知れば、世界は放っておかない。これからの戦いは、ダンジョン攻略とは比にならない規模になるかもしれない。
しかし、マモルはアルカの頭をもう一度撫でてから、ニカっと笑った。
「ま、何とかなるさ。……俺には皆がいるからな」
その言葉には、根拠のない自信ではなく、確かな信頼が込められていた。
デュラスは少しだけ目を見開き、やがてフッと笑って肩をすくめた。
「……フン、言うようになったな」
そこへ、痺れを切らしたフィリアとエルミナが手招きをした。
「なーに二人でシリアスな話をしてるの? こっち来てよ!」
「本当ですよ~! マモル様がいナイト始まりません! 乾杯しましょ!」
「ああ、今行く!」
マモルは立ち上がり、光り輝く未来へ歩き出すように、仲間たちの輪へと戻っていった。
「やれやれ……退屈はしなそうだな」
デュラスもまた、グラスに残ったワインを飲み干し、その後を追った。
月下の元、最強の初心者パーティは酒を酌み交わし、高らかに笑い合った。
彼らの冒険は、まだ始まったばかりなのだから。
◇
【第一章 一般ピーポーの勇者 完】




