EP 57
自宅に帰還したマモル達は、地下の厳重な結界が張られた金庫室に集まっていた。
テーブルの上には、先ほど手に入れた『始祖竜の卵(化石)』が鎮座している。
「始祖竜の卵、ねぇ……」
マモルが石化した表面を指でなぞる。今はただの冷たい石だが、中には伝説の怪物が眠っている。
「化石ですけど、孵ったら可愛いのかしら~?」
「見た目はともかく、その力は世界を滅ぼすレベルですわ。……うっとりします」
フィリアとエルミナは興味津々だ。女性陣の肝が据わりすぎている。
デュラスは腕を組み、難しい顔で唸った。
「ふむ……。通常なら蘇生は不可能だが、我々には手に入れたばかりの『時戻しの霊薬』と『不死の華』がある。これらを組み合わせれば、理論上は孵化させることが可能かもしれん」
デュラスが学術的な見解を述べると、マモルがポンと手を打った。
「そっか。じゃあ、やってみよう」
「うむ。……って、ま、待て貴様!!」
デュラスが慌ててマモルを止める。
「相手は始祖竜だぞ!? かつて天使と魔族が手を組んでやっと封印した最強種族だ! それを蘇らせてどうするつもりだ!」
「どうするって……。やっぱり、どんな生物か見てみたいじゃないか。男のロマンだろ?」
「それに、可愛いは正義です! もふもふかもしれません!」
「私も見た~いです! 私たちの手で育てれば、きっと良い子になりますよ~」
マモル、フィリア、エルミナの三人は完全に「孵化させる気満々」だ。
「ぐぬぬ……。こうなったらもう止まらんか……」
多数決に敗北したデュラスは、諦めてため息をついた。
こうして、世界を揺るがす「始祖竜孵化プロジェクト」が、地下室でひっそりと始まった。
◇
「まずは、この化石化した時間を巻き戻す。『時戻しの霊薬』の出番だ」
デュラスの指示で、エルミナが小瓶の蓋を開ける。
「いきますわよ~。……エイッ!」
エルミナは躊躇なく、国宝級の霊薬をドバドバと石の卵にかけた。
シュワワワワ……!
液体が染み込むと同時に、灰色の石の表面に亀裂が入り、剥がれ落ちていく。
中から現れたのは、虹色に輝く真珠のような、美しい巨大な卵だった。
「おおっ! 綺麗な色に戻った!」
「な、何という波動だ……!」
デュラスが冷や汗を流す。ただ卵に戻っただけなのに、部屋中の空気がビリビリと震えている。
「まだ眠っている状態ね。……でも、すごく強い生命力を感じる。良い子に育つわね、これ」
フィリアが母性溢れる顔で卵を撫でる。
「次は魂と肉体の定着、そして生命力のブーストだ。『不死の華』を使うぞ」
マモルは、以前手に入れた『不死の華』を取り出し、その花弁から滴る蜜を卵の殻にすり込んだ。
ジュッ……!
「熱っ!?」
マモルが手を引っ込める。卵がカッカと熱を発し始めたのだ。
まるで、生きる意志に火がついたように。
グゥゥゥゥ~……キュルルル……。
突如、卵の中から可愛らしい、しかし野太い音が響いた。
「あら? 今の音……」
「お腹が空いてるみたいですね?」
エルミナが目を丸くする。
孵化直前の赤ん坊が、エネルギーを求めているのだ。
「ええい、手のかかる! 全員で魔力を注ぐぞ! こいつを満足させてやる!」
デュラスの号令で、四人は卵を囲んだ。
「王帝よ! 俺の気合い(オーラ)を全部食らえ!」
「主の御許に! 神聖なる神気を!」
「私の闘気も! お腹いっぱいお食べ!」
「魔界の深淵なる魔力よ! ……加減はせんぞ!」
マモルの赤いオーラ、エルミナの黄金の光、フィリアの緑の風、そしてデュラスの漆黒の闇。
四種四様の膨大なエネルギーが、小さな卵へと収束していく。
普通なら破裂するほどの量だが、卵はブラックホールのように全てを飲み込んでいく。
そして。
パキッ……パキパキッ……!
「あ、割れる!」
カッッッ!!!
まばゆい閃光が地下室を包み込んだ。
光が収まると、割れた殻の中心に、一匹の小さな竜が座っていた。
全身は透き通るようなプラチナシルバー。背中には小さな翼が生え、瞳は宝石のようなオッドアイ(右が金、左が紫)。
トカゲというよりは、ぬいぐるみに近い愛らしさがある。
「おぉ……!」
「か、可愛い~!!」
フィリアとエルミナが歓声を上げる。
「ふぅ……。ようやくか。……しかし、禍々しさはないな」
「何という神々しいのでしょ。天使の私より光ってますわ」
マモルは恐る恐る手を伸ばし、その幼体を抱き上げた。
温かい。そして、ずっしりとした命の重みがある。
「可愛いなぁ……。俺たちが孵したんだもんな。……えっと、名前は……」
マモルが考え込んでいると、腕の中の幼竜が、つぶらな瞳でマモルを見つめ返し、小さな口を開いた。
「ア……ル……カ……」
「えっ!?」
「しゃ、喋った!?」
デュラスが驚愕する。生まれた直後に言語を発するとは、やはり規格外だ。
「アルカ……。自分の名前を言ってるのか?」
「ア~ル~カ~!」
幼竜は嬉しそうにマモルの頬にスリスリと顔を擦り付けた。
「決まりね! 『アルカ』ちゃん!」
「素敵な名前ですぅ! アルカちゃん、いいこいいこ~!」
フィリアとエルミナが交互に頭を撫でると、アルカは「キュウ!」と嬉しそうに鳴いた。
その光景を見て、デュラスも強張っていた肩の力を抜いた。
「フン……。始祖竜アルカ、か。……我ら四人の力を受け継いだ申し子。末恐ろしいが……まあ、悪くない」
こうして、マモルの家に最強の新しい家族が加わった。
数学教師(元)にして、Aランク冒険者、プラチナ商人、そして「始祖竜のパパ」となったマモル。
彼の波乱万丈な異世界ライフは、まだまだ終わらない――。




