EP 56
光り輝く空間の中心で、真守はその『化石の卵』を両手で抱えていた。
石のように冷たく硬い感触。しかし、その奥底からは、ドクン、ドクンと、星の鼓動のような重厚な脈動が伝わってくる。
「……なんか、これ。生きてる気がするな」
真守が呟いたその時、隣にいたデュラスとエルミナの顔色が一変した。
「ッ!? な、なんだこの力は……!?」
「ひゃあ!? こ、この聖なる力は……神界の神器以上ですわ!?」
デュラスは脂汗を流して後ずさり、エルミナは腰を抜かしそうになっている。
ただならぬ気配に、デュラスが宙に浮く妖精を睨みつけた。
「キュルリン! 貴様! これは……ただのドラゴンの卵ではないな!?」
キュルリンは悪戯っぽくニヤリと笑い、くるりと宙返りをした。
「ん~、ご名答。それはのう……『始祖竜』の卵じゃ」
「なっ……『始祖竜』だと!?」
デュラスが素っ頓狂な声を上げて絶句した。
その単語を聞き、エルミナが人差し指を顎に当てて首をかしげる。
「ん~? 『始祖竜』……? どこかで聞いたような……。あ、小学校の歴史の教科書で習ったような気がしますぅ」
その暢気な発言に、デュラスのカミナリが落ちた。
「馬鹿者ぉぉぉッ!! 教科書レベルの話ではないわ!!」
デュラスは震える指で卵を指差した。
「いいか!? これは『天使族』と『魔族』、そして『竜人族』が争った遥か太古の『古代大戦』の元凶だ! 当時、竜人族から生まれた『突然変異体』にして、絶対的な破壊の化身!」
デュラスの解説は熱を帯びる。
「そのあまりの強さに、本来敵対しているはずの天使族と魔族が、その時だけは手を組み、全種族の総力を挙げてやっとの思いで封印したという伝説の怪物だぞ!? ……貴様、歴史の授業で寝てたな!?」
「うわぁぁ~ん! 本当の事言われたぁ~!」
エルミナが図星を突かれて泣き出した。
どうやら、授業中は居眠りをしていて、「なんかすごい竜がいた」程度にしか覚えていなかったらしい。
「泣いても許さん! ……おいキュルリン! やって良い事と悪い事が有るぞ! こんな世界を滅ぼしかねない代物を、人間に渡すなど狂気の沙汰だ!」
デュラスが真剣な怒りをぶつける。
しかし、キュルリンはどこ吹く風で、真守の腕の中にある卵を優しく見つめた。
「アタシは狂ってなどいないよ。……アタシはただ、その卵の『願い』を叶えてるだけじゃ」
「願い……?」
真守が卵を見下ろす。
この化石が、何かを願っているというのか。
「その子は長い間、ずっと待っていたのさ。自分の力を恐れず、利用しようともせず、ただ家族として愛してくれる者をね。……お前さんたちの戦いぶりを見て、その子が『ここに行きたい』と望んだのじゃよ」
キュルリンの言葉に、真守は卵の重みを改めて感じた。
破壊の化身だろうが何だろうが、今のこれは、ただの温かい卵だ。
シリアスな空気が流れる中、フィリアがひょいと顔を出して、卵をツンツンと突っついた。
「ふーん。よく分かんないけど、要するに凄いレアってことでしょ?」
フィリアは満面の笑みで真守を見た。
「マモル、この卵貰っちゃうよ? 美味しいオムレツにはできなそうだけど、ペットにしたら可愛いかも!」
「お、おいフィリア! 貴様な……!」
デュラスが止めようとするが、キュルリンが笑って遮った。
「あぁ、いいとも。アタシのダンジョンをクリア出来た褒美だ。煮るなり焼くな……いや、焼くのは無理かもしれんが、好きにするが良い」
キュルリンが指を鳴らすと、マモル達の足元に転送魔法陣が輝き始めた。
「地上への直通ルートだ。……達者でな、最強の初心者たちよ!」
「ああ! ありがとう、キュルリン!」
光が視界を包み込む。
世界を滅ぼす「始祖竜の卵」、時間を戻す「時の霊薬」、寿命を操る「不死の華」。
とんでもないお土産を抱え、真守たちはついにキュルリン・ダンジョンから生還したのだった。




