EP 55
「行ってみるか。その『巣穴』に」
死竜騎兵団の異常なほどの防衛本能。それを逆手に取り、真守は決断を下した。
真正面から全滅させるのではなく、彼らが守る中心地へ強行突破する。
「何!? 正気かマモル! 敵の真っ只中だぞ!」
「このままだとジリ貧で押し切られる! 活路を開くには、奴らの守る『急所』を突くしかない!」
真守の言葉に、フィリアが弓を背負い直して頷いた。
「そうだね! 守ってるってことは、そこにゴールがあるはず!」
「行きましょう! マモル様についても行きます!」
エルミナも覚悟を決める。
三人の意志を確認し、デュラスはニヤリと笑った。
「チッ、分かった。命知らず共め。……ならば、最強の露払いを見せてやろう!」
デュラスはオリハルコン・ゴーレムの背中に手を当て、魔力を注ぎ込んだ。
「ゴーレムよ! 我が前の敵を打ち砕け! 前進あるのみだ!!」
ズドオオオオオオンッ!!
命令を受けた白銀の巨人が、地響きを立てて前進を開始した。
その圧倒的な質量で、立ちはだかる死竜騎兵たちをボウリングのピンのように跳ね飛ばしていく。
「「「オオオオオオオオオッ!!!」」」
だが、死竜騎兵団も引かない。彼らは自らの身体が砕けるのも厭わず、ゴーレムの足元に群がり、剣を突き立て、あるいは死竜ごと特攻を仕掛けてきた。
鬼気迫る「守護の意志」。その執念が、徐々に巨人の歩みを鈍らせていく。
「くっ……! 止まるな! 押し返されるぞ!」
「援護するわ! 私の闘気を食べて!」
「神聖なる加護を! 邪悪を払う光を!」
フィリアとエルミナが叫び、ゴーレムの背中にしがみついて直接エネルギーを流し込む。
フィリアの赤い『闘気』がゴーレムの機動力を加速させ、エルミナの黄金の『神気』がオリハルコンのボディに聖なる輝きを付与する。
『神闘機神・オリハルコン・ゴーレム』の誕生だ。
「グオオオオオオオッ!!」
輝く巨人は再び加速し、光る腕の一振りで数十体の騎兵を浄化・粉砕した。
追い詰められた死竜騎兵団は、ここで驚くべき行動に出た。
彼らの骨体がドロドロと溶け出し、一つの巨大な塊へと融合し始めたのだ。
「な、なんだ!? 合体した!?」
数百の恨みと執念が凝縮され、天を突くほどの巨大なドラゴンの姿を形成する。
腐肉と骨で構成された最凶のアンデッド――カース・ドラゴン。
「GYAAAAAAAAAAAAA!!!」
「グオオオオオッ!!」
カース・ドラゴンと、オリハルコン・ゴーレム。
二体の怪獣が激突し、凄まじい衝撃波がダンジョン全体を揺るがす。
お互いがガッチリと組み合い、力比べをしているその瞬間。
足元にわずかな隙間が生まれた。
「今のうちだ!! 走れッ!!」
真守が叫び、全速力で駆け出した。
頭上で巨人と竜が殴り合う轟音を聞きながら、四人は死に物狂いでその股下を抜け、敵陣の最奥――クレーターの中心へと滑り込んだ。
◇
そこは、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
クレーターの中心。石造りの台座のような場所に、それはあった。
「……これが」
直径1メートルほどの、巨大な『化石の卵』。
遥か昔に生命活動を終え、今はもう石となっているが、それでも親たちが守り抜こうとした命の証。
真守たちがその卵に手を触れた、その時だった。
パァァァァァァ……。
卵が淡い光を放ち、その光の中から、パタパタと小さな羽音をさせて妖精が飛び出してきた。
「おめっとさぁ~ん!」
キュルリンだ。
いつもなら人を小馬鹿にしたような態度をとる彼女だが、今はどこか穏やかな、満足げな表情を浮かべていた。
「やるじゃないか、人間(と魔族と天使)。力だけでなく、知恵と勇気、そして何より『情』を見せてもらったよ」
キュルリンは化石の卵を愛おしそうに撫でた。
「ここはかつて、愚かな争いで滅びた竜たちの墓場さ。アタシはずっと、彼らの無念を鎮めてくれる『強くて優しい者』を待っていたんだ」
「……そうか。あの騎士たちは、あんたが用意した試練だったのか」
「ま、そういうこと。……よくぞここまで辿り着いたね」
キュルリンは空中で一回転し、高らかに宣言した。
「おめでとう、マモル達! これにて『キュルリン・ダンジョン』、完全クリアだ!!」
その言葉と共に、周囲の景色が光に包まれ、激闘を繰り広げていたカース・ドラゴンも、ゴーレムも、全てが祝福の光の中へと溶けていった。
ついに、真守たちは伝説のS級ダンジョンを攻略したのだ。




