EP 54
地鳴りのような轟音と共に、死竜騎兵団の大軍が雪崩のように押し寄せる。
真正面から受ければ、いかにAランクパーティといえど肉塊に変えられる質量と破壊力だ。
「出し惜しみ無しだ! ここで止めねば我々が踏み潰される!」
デュラスが叫び、両手を地面に叩きつけた。彼が使うのは、魔界の宝物庫から召喚する最強の防壁。
「我が前に出でよ! 神話の金属、絶対不落の守護神! オリハルコン・ゴーレム!!」
ズゴゴゴゴゴォォォォォン!!!
大地が割れ、光り輝く白銀の巨人が出現した。
その身体は、世界で最も硬いとされる伝説の金属オリハルコンで出来ている。
「グオオオオオッ!!」
先頭の死竜たちがゴーレムに激突するが、巨人は微動だにしない。剣も槍も、その装甲に傷一つつけることすら叶わない。まさに鉄壁の要塞だ。
「ナイス壁! デュラス!」
フィリアがゴーレムの背中に飛び乗り、その巨体を遮蔽物にして矢を放つ。
「死角からなら狙い放題よ! そこっ!」
正確無比な射撃が、兜の隙間を縫って騎士の頭蓋を砕く。
「私も行きます! 一網打尽にします!」
エルミナが空高く舞い上がり、背中の翼を大きく広げた。神聖な魔力が充填され、翼が黄金色に発光する。
「舞い散れ、聖なる刃! ゴールド・フェザー!!」
バサァッ!!
翼から無数の黄金の羽根が雨のように降り注いだ。
羽根一枚一枚が鋭利な刃であり、アンデッドを浄化する聖なる光弾でもある。
「ギャアアアアッ!?」
前衛の騎士たちが浄化の光に焼かれ、次々と崩れ落ちていく。
だが、それでも敵の波は止まらない。
「くそっ、キリがねぇ! 道を空けろ!!」
真守が『王帝』を振り回し、前に出る。
主の闘気に呼応し、三節根が唸りを上げて紅く発光する。
「王帝よ、力を貸せ! 全てを押し流す一撃だ! 王流波!!」
真守が『王帝』を横薙ぎに振るうと、空間が歪むほどの衝撃波が発生した。
それは扇状に広がり、迫りくる死竜たちを十数体まとめて吹き飛ばし、壁に叩きつけて粉砕した。
Aランク級の火力を連発し、広場には骨の山が築かれていく。
しかし――。
ザッ、ザッ、ザッ……。
倒しても倒しても、奥の闇から新たな騎兵が現れ、穴を埋めるように陣形を整える。
「ハァ……ハァ……。数が多すぎる! 湧いてくるスピードが異常だぞ!」
真守が肩で息をする。このままではジリ貧だ。
「何か無いの!? 弱点とか、停止スイッチとか!」
フィリアが矢筒の残りを気にしながら叫ぶ。
「う~ん……。やっぱり、指揮官を倒すしかないんじゃないですか? どこかに親玉が……」
エルミナがキョロキョロと探すが、それらしい個体は見当たらない。
「いや、待て……」
デュラスがゴーレムの肩の上で、戦況を冷静に分析していた。
彼の瞳は、敵の「動き」の違和感を捉えていた。
「奴ら……ただ闇雲に襲ってきているわけではない。一定のラインからこちらを押し返そうとしているだけだ。まるで、背後にある『何か』を守っているかのように」
「守る? アンデッドがか?」
「フィリア! 『鷹の目』で敵陣の奥、あいつらが背にしている中心部を確認しろ!」
「わ、分かった!」
フィリアが瞳に魔力を集中させる。視界が急速にズームされ、死竜騎兵団の分厚い陣形の向こう側が映し出された。
そこには、巨大なクレーターのような窪みがあり、騎兵たちはそこを取り囲むように円陣を敷いていた。
「……本当だ。騎士達が、まるで巣穴を守るように固まってる。その中心に……あれは、卵の殻?」
「卵だと?」
真守の中で、キーワードが繋がった。
死竜。騎士。そして守られる巣穴。
「……そうか。ここは単なるボス部屋じゃない」
真守の声が震える。
「死竜騎士……死んだ竜と、竜人達……。そして巣穴……」
デュラスが苦渋に満ちた顔で頷いた。
「あぁ。ここは古代の戦場であり、同時に……『竜の墓場』であり『孵化場』だった場所か」
彼らは侵入者を排除するために襲っているのではない。
死してなお、既に孵ることのない卵を、あるいは眠りについた同胞を、本能だけで守り続けているのだ。
「なんて悲しい軍隊だ……」
真実を知った真守たちの手が、一瞬止まった。
だが、死竜騎士たちの突撃は止まらない。彼らに言葉は通じないのだ。




