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EP 49

ギルドで「Aランク昇格」という衝撃のニュースを残し、真守たちはその足でキュルリン・ダンジョンへと向かった。

三層への挑戦。本来なら緊張感が高まる場面だが、ダンジョンの入口には別の種類の緊張感が漂っていた。

「……おい、来たぞ。マモルだ」

「マジか……。本当にたった数日でAランクになったのか?」

「しかもプラチナランクの商人だぞ……。俺たち、昨日あんな態度取っちまったけど、大丈夫か?」

いつもなら威圧的に道を塞いでいるルナミス騎士団の兵士たちが、今日は真守たちの姿を見るなり、サッと道を開け、恐れおののくようにヒソヒソと噂し合っている。

「……なんだか、空気変わりすぎじゃないか?」

真守が戸惑っていると、テントの奥からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

「おぉぉぉ! これはこれはマモル様!! よくぞお越しくださいました!!」

現れたのは、レオパルド団長だ。

昨日の高慢な態度はどこへやら。揉み手をして、脂下がった満面の笑みを浮かべて小走りで駆け寄ってきた。

「ようこそマモル様! お待ちしておりました! 私共が、皆様の探索の邪魔にならないように、僭越ながらダンジョン入口の『清掃』をしておりました!」

レオパルドは足元の小石を大袈裟に蹴り飛ばし、「ささ、どうぞ!」と道を示す。

「え? あ、ありがとうございます……(清掃って、騎士団の仕事か?)」

真守が呆気に取られていると、レオパルドは次にデュラスへ向き直り、深々と頭を下げた。

「デュラス様! 先日は大変失礼いたしました! 何か不自由な事は有りませんか? 喉は乾いておられませんか? 肩はお凝りではありませんか?」

「……特には無いな」

「左様でございますか! 他の皆様も、何なりとこの騎士団をお使い下さい! 荷物持ちでも、露払いでも、喜んでさせていただきますので!」

そのあまりの変貌ぶりに、フィリアとエルミナがドン引きしている。

「ああっ! いけません!」

突然、レオパルドが悲鳴を上げて地面に膝をついた。

「マモル様! お靴が! お靴が汚れています!」

レオパルドは懐から自身の高級そうなシルクのハンカチを取り出した。

「失礼ながら、このレオパルドがお拭き致します! Aランクの英雄の足元に、泥などあってはなりません!」

そう言って、本当に真守のブーツを拭こうと手を伸ばしてきた。

「ヒッ……!」

フィリアが思わず小さな悲鳴を上げ、一歩下がる。

「い、いえ……結構です! 自分でやりますから! 別に不自由とかしてませんし!」

「そ、そうですね~……。特に困ってませんので、お気になさらず……」

エルミナも気まずそうに視線を逸らす。

一国の騎士団長が、平民(元)の靴を磨こうとする姿など、あまりに見苦しく、そして恐ろしい。

しかし、レオパルドは必死だった。彼はハンカチを握りしめたまま、上目遣いで真守に懇願した。

「そ、そうですか……。では、是非共! 是非共この騎士団……このレオパルドを! マモル様が皇帝陛下にお会いする時には、何卒! 何卒『良きお言葉』をかけて頂きたく!!」

彼の本音はそこだった。

Aランク冒険者でプラチナ商人。この地位は、皇帝への直接謁見が許されるレベルだ。もし真守が「レオパルド団長に嫌がらせをされた」と一言告げ口すれば、彼の首など物理的にも社会的にも一瞬で飛ぶ。

「は、はぁ……。善処します。……では失礼します」

「ハハーッ!! ありがたき幸せーーっ!!」

レオパルドは地面に額を擦り付ける勢いで平伏した。

   ◇

真守たちは逃げるようにダンジョンのゲートをくぐり、中に入った。

騎士団の姿が見えなくなってようやく、真守は大きく息を吐いた。

「な、何だったんだ? アレ? 人が変わりすぎて怖いんだけど……」

昨日までの「偉そうな団長」と、今の「媚びへつらう下僕」。そのギャップに頭がついていかない。

デュラスは、さも可笑しそうに鼻で笑った。

「ふん。分かりやすい男だ。『風向きが変わった』ので、慌てて媚びへつらいに来たのだよ」

「風向き?」

「あぁ。貴様は今や『Aランク冒険者』であり、国家予算並みの富を持つ『プラチナ商人』だ。対して奴は、ただの騎士団長。……権力構造が逆転したのだ」

デュラスは真守の背中をポンと叩いた。

「騎士団の団長ごときが、国の宝である貴様に敵うわけがない。奴は自分の保身のために、プライドを捨てて靴を舐めに来たのさ」

「……なるほど。権力ってすげぇな」

真守は改めて、自分が手に入れた「力」の大きさを実感した。

ただの冒険者としての武力だけでなく、社会的な地位までもが、敵を黙らせる武器になる。

「ま、おかげで邪魔者は消えた。心置きなく三層を攻略するとしよう」

「そうだな。行こう!」

真守たちは気持ちを切り替え、レオパルドの情けない顔を記憶の隅に追いやって、未知なる第三階層へと進んでいった。

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