EP 46
ダンジョンの出口から、真守たちは人目を避けるように早足で歩いていた。
普段なら冒険者ギルドへ直行し、ドヤ顔で報告と換金を行うところだが、今日ばかりは事情が違う。
「……今日は、真っ直ぐ家に帰ろう。ギルドへの報告は後でいい」
真守が小声で提案すると、デュラスが深く頷いた。
「そうだな。賢明な判断だ。この『時の霊薬』……一刻も早く厳重に保管しなくてはならん。こんな物を腰にぶら下げて街を歩くなど、爆弾を抱えて火の中を歩くようなものだ」
レオパルド騎士団に見つかるのは論外、商人に見つかっても面倒なことになる。
一行は裏道を使い、コソコソと真守の屋敷へと帰還した。
◇
「ふぅ~! やっと着いた~!」
玄関の扉を開けるなり、フィリアが靴を飛ばしてリビングへダイブしようとした。
「やっぱり喉が渇いた~! マモル、ジュースジュース! 冷たいオレンジジュース!」
「私はお菓子が食べたいです~! 脳が糖分を求めていますわ!」
エルミナもトテトテと冷蔵庫へ向かおうとする。緊張の糸が切れ、完全に「家モード」だ。
「おぃ、待たんか貴様ら!」
デュラスが二人の襟首を掴んで止めた。
「その前に『時の霊薬』の保管が先だ! 飲んで食って寝て、起きたら盗まれてましたでは済まされんぞ!」
「ぶー。ケチー」
「デュラスさんの分からず屋~」
「そうだな。仕事(保管)を済ませてから、ゆっくりしよう」
真守が苦笑しながらなだめ、一行はゾロゾロと地下室への階段を降りた。
◇
地下金庫室。
重厚な扉の奥には、前回の『不死の華』が妖しい光を放っている。
真守はその隣に、今回の『時の霊薬』を慎重に安置した。
「寿命を伸ばす華に、時間を戻す薬か……。ここだけ異界だな」
真守がため息をつく。
この棚にあるものだけで、国がいくつ買えるかわからない。あるいは、国がいくつ滅ぶか。
「では、施錠するぞ。……『魔王級封印・奈落の鎖』」
「はいっ! 重ねがけします! ……『神聖結界・サンクチュアリ・シールド』!」
デュラスの漆黒の鎖と、エルミナの黄金の結界。
二重の最強セキュリティが展開され、小瓶は完全に空間から隔離された。
「よし。これで神が来ても盗めまい」
デュラスが額の汗を拭う。
これでようやく、肩の荷が下りた。
◇
「さあ! 今度こそお疲れ様会だ!」
リビングに戻った四人は、ソファーに深く沈み込んだ。
真守が冷蔵庫からそれぞれの飲み物を取り出す。
「今日は……ビールかな。キンキンに冷えてるやつ」
「私は赤ワインだ。ヴィンテージの重いやつを頼む」
「私はいつものオレンジジュース!」
「私は……今日は甘いのがいいので、果実酒にします!」
グラスに注がれた色とりどりの液体が、照明に反射して輝く。
「それじゃあ、二層突破と、無事の帰還を祝って……乾杯!」
カチャン、とグラスが触れ合う音が響く。
「んっ、んっ、んっ……ぷはぁ~っ! ビールが美味い!!」
真守がジョッキを一気に煽る。
ダンジョン探索で疲労した体に、炭酸の刺激とホップの苦味が染み渡る。これぞ至福。
「あぁ……生き返るわねぇ~」
「甘くて美味しいですぅ~」
フィリアとエルミナも、それぞれジュースと果実酒を楽しみながら、リラックスした表情を見せる。
デュラスもワイングラスを回し、香りを楽しみながら口を開いた。
「しかし……妙だな」
「ん? 何が?」
「一層が『不死の華(生命)』、二層が『時の霊薬(時間)』……。どちらも世界の理をねじ曲げるアーティファクトだ」
エルミナが果実酒で少し赤くなった顔で、指を口元に当てて考える。
「うーん……確かにそうですね。不死に、時戻し……。次は一体何があるんでしょう?」
「空間操作か、あるいは死者蘇生か……。ろくな予感がしないな」
フィリアがストローを噛みながら首を傾げる。
順当に行けば、さらにヤバい代物が出てくるのは間違いない。
だが、今の真守には、その問いに対する答えよりも優先すべきことがあった。
「ま、先のことは考えても仕方ないさ」
真守は二杯目のビールを注ぎ、泡を見つめてニカっと笑った。
「今は、このビールの美味さと、無事に帰ってこれたことを噛み締めようぜ。……答え合わせは、明日以降だ」
「フッ、違いない。今宵は酔うとするか」
デュラスも苦笑し、ワインを干した。
世界を揺るがす秘密を地下に眠らせたまま、最強の初心者パーティの夜は更けていくのだった。




