EP 45
ガーゴイルの残骸が光の粒子となって消え去ると、台座の上に神々しい光を放つ宝箱が出現した。
第一階層の黄金の箱とは違う、透き通るような白銀の宝箱だ。
「よし、開けるぞ……」
真守が慎重に蓋を開ける。
中に入っていたのは、金銀財宝の山……ではなく、クッションの上に鎮座する、たった一本の小瓶だった。
その小瓶の中では、金色の液体が砂時計の砂のようにサラサラと、重力に逆らって渦を巻いていた。
「……なんだこれ? 飲み薬か?」
真守が小瓶を取り出し、光にかざす。
それを見た瞬間、デュラスの顔色が変わり、普段の冷静さをかなぐり捨てて身を乗り出した。
「ま、待てマモル! 落とすなよ! 絶っっっ対に落とすなよ!」
「えっ、うわっ、なんだよ急に!」
デュラスが脂汗を浮かべている。
「こ、これは……伝説の『時の霊薬』。通称『時戻し』だ」
「時戻し?」
フィリアが首をかしげる。
「はい……。対象の時間を、強制的に『過去の状態』に戻す秘薬ですわ」
エルミナが震える声で補足する。
「壊れた物を新品に戻すのはもちろん、瀕死の重傷を負う前の状態に戻したり……極端な話、老いた肉体を若返らせることすら可能な、神の領域のアイテムです」
「な……何てこった……」
真守の手が震える。
前回の『不死の華』も凄かったが、これは次元が違う。死んだ直後なら蘇生すら可能かもしれないし、失敗した過去をなかったことにもできる。
まさに、世界をひっくり返す「リセットボタン」だ。
「ニヒヒッ! 正解~!」
唐突に、虚空からあのふざけた声が響いた。
キラキラとした光と共に、ダンジョンの主、妖精キュルリンが現れる。
「おめっとさぁ~ん! あのガーゴイルコンビを力技じゃなく、あんな方法で攻略するとはねぇ。中々楽しめたよ」
キュルリンは空中でパチパチと拍手をしている。
だが、今回は誰も笑わなかった。デュラスが鋭い眼光で妖精を睨みつける。
「……おい、キュルリン。貴様、何を考えている?」
「あ~ん?」
「一層では寿命を伸ばす『不死の華』。二層では時間を巻き戻す『時の霊薬』。……これらは単なる宝ではない。どちらも『理』に干渉するものだ」
デュラスは真守の手にある小瓶を指差した。
「貴様ほどの強大な存在が、なぜこのような物を人間に与える? まるで、誰かに『何か』を成し遂げさせようとしているようじゃないか」
ただの娯楽にしては、報酬の意味深さが過ぎる。
デュラスの問いに、キュルリンはニヤリと笑ったが、その瞳の奥には底知れない感情が一瞬だけ揺らいだように見えた。
「さてのぅ。……アタシはただの暇つぶしが大好きな妖精サマだからねぇ」
キュルリンはくるりと宙返りをした。
「答えを知りたきゃ、このダンジョンを最後まで突破してみな。最深部には、これらを超える『真実』があるやも知れんぞ?」
「……やはり、何かあるのか」
真守が呟く。
キュルリンはウィンクをした。
「ま、精々頑張りなよ。次も面白いショーを期待してるからさ! じゃあね~!」
言うだけ言って、キュルリンは再び姿を消した。
後に残されたのは、世界を揺るがす小瓶と、深まる謎。
「……食えない奴だ」
「でも、進むしかないわね。答えを見つけるためにも」
フィリアが真守の肩に手を置く。
真守は『時の霊薬』を、あの高級ポーチの中でも一番安全なポケットにしまい込んだ。
「あぁ。とにかく、これも厳重保管だ。間違ってもレオパルドなんかに知られたら戦争になる」
「違いありません。……さあ、帰りましょう。今日はもうお腹いっぱいです」
エルミナの言葉に全員が頷いた。
真守たちは専用脱出ルートを使い、重すぎる戦利品と共に帰路についた。
ダンジョンの深淵に眠る「キュルリンの目的」に触れる日は、そう遠くない予感がしていた。




