EP 41
鏡の迷宮を突破し、真守たちは第二階層の最奥、ボス部屋の扉の前までたどり着いた。
重厚な扉からは、先ほどのデュラハン以上のプレッシャーを感じる。
「ふぅ……。ここが二層のボスか。少し休憩して、英気を養わないか?」
真守が提案すると、フィリアがポンと手を打った。
「賛成! ちょうどお腹も空いてきたしね。……じゃじゃーん!」
フィリアは腰につけた、ユリアンから買ったばかりの『魔法収納ポーチ』から、バスケットを取り出した。
時間停止機能のおかげで、作りたての温かさと香りが漂ってくる。
「ここで『ランチタイム』にしましょう! エルミナちゃんと一緒に作ったサンドイッチだよ!」
「はいっ! マモル様のために、愛を込めて作りました~!」
殺伐としたダンジョンのボス前が、一瞬にしてピクニック会場へと早変わりした。
「おぉ、ありがとう。気が利くなぁ」
「ほう。腹が減っては戦はできぬ、か。頂こう」
四人は車座になり、サンドイッチを手に取った。
バスケットの中には、二種類のサンドイッチが綺麗に並んでいる。
一つは、厚切りのローストポークとシャキシャキ野菜が挟まれた、ボリューム満点の「わんぱくサンド」。これは十中八九、フィリア作だ。
もう一つは、ふわふわの白いパンに、玉子サラダとハムが上品に挟まれた、美しい断面の「ミックスサンド」。こちらがエルミナ作だろう。
真守はまず、フィリアの方を一口。
(肉の旨味がガツンと来る! パンに塗られたマスタードが絶妙だ)
「美味しい! 肉の味付けが最高だ」
続いて、エルミナの方を一口。
(パンが雲みたいに柔らかい……! 玉子の味付けも優しくて、癒やされる味だ)
「こっちも美味しいなぁ。いくらでも食べられそうだ」
横で食べていたデュラスも、満足げに頷いた。
「あぁ、美味い。宮廷料理人が作るものより、心がこもっている味がするな」
和やかな食事風景。
しかし、食べ終わった瞬間、空気が凍りついた。
フィリアとエルミナが、同時に身を乗り出し、真守の顔を覗き込んだのだ。
「ねぇ、マモル?」
「マモル様?」
二人の瞳が、獲物を狙う狩人のように真守をロックオンする。
「どっちが美味しかった?」
フィリアが単刀直入に切り込んだ。
「え?」
真守の動きが止まる。
「私と~、フィリアさんのサンドイッチ……どっちが『より』美味しかったですか~?」
エルミナもニコニコしているが、背後には聖なるオーラ(圧)が見える。
これは、ダンジョンのトラップよりも恐ろしい、乙女のデス・クエスチョン。
(ま、マズい……!)
真守の脳内で緊急会議が開かれる。
フィリアを選べばエルミナが泣く(or 拗ねる)。
エルミナを選べばフィリアが怒る(or 射抜かれる)。
どちらを選んでも、パーティの士気に関わる致命傷だ。
真守は冷や汗を流しながら、デュラスに助けを求めて視線を送った。
しかし、魔族公爵は「これは見ものだ」とばかりにニヤニヤして、コーヒーを啜っているだけだ。
(くそっ、あいつ楽しんでやがる! ……ええい、こうなったら!)
真守は意を決して、満面の笑みを作った。
「え、えっと~……りょ、両方! 両方とも凄く美味しかったよ! 甲乙つけがたいというか、二つ合わさって最強の味というか!」
「…………」
「…………」
沈黙が流れる。
デュラスが心の中で呟いた。
(……逃げたな)
あからさまな八方美人。平和的解決という名の責任放棄。
当然、二人のヒロインは納得しなかった。
「えぇ~……。つまんな~い」
フィリアが頬を膨らませて、あからさまに不満の声を上げる。
「本当ですぅ。マモル様、そこは男らしくはっきり言ってくれないと、愛が足りませんよ~」
エルミナもジト目で真守を見る。
「い、いや、本当にどっちも美味しかったんだって! 選べないくらい!」
真守が必死に弁解するが、二人の機嫌は微妙なままだ。
「ふん。まあいい。勝負はお預けということだな」
「次は負けませんからね~」
どうやら今回は「引き分け」で許してもらえたようだ。
真守は深く安堵のため息をつき、ボス扉に向き直った。
「さ、さあ! 腹も満たされたし、ボスに行こうか! 行こう!」
逃げるように立ち上がる真守。
その背中を見ながら、デュラスは「やれやれ、前途多難だな」と笑い、最後のサンドイッチを口に放り込んだ。




