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EP 40

第二階層への階段を下りると、そこは異様な空間だった。

床も、壁も、天井さえも。視界の全てが磨き上げられた「鏡」で覆われた、銀色の迷宮。

「うわ……。目が回りそうだ」

「自分の顔が無限に見えるというのは、あまり気分の良いものではないな」

真守とデュラスが顔をしかめる。どこを見ても自分たちが映り込み、遠近感が狂う。

「警戒して進もう。何か居るはずだ」

真守が『王帝』を構え、慎重に歩を進める。

その時。

ニュルリ……。

真守の真横にあった鏡の表面が、水面のように波打った。

「マモル! 右!」

フィリアの叫び声と同時に、鏡の中から鋭利な水晶の爪が飛び出した。

「うおっ!?」

真守はとっさに身を屈めて回避する。爪は空を切り、鏡の縁を削った。

さらに、左の鏡、天井の鏡、床の鏡からも、次々と銀色の不定形な魔獣が這い出してくる。

鏡獣ミラー・ビーストグロッタ。

鏡の中を自由に移動し、実体化して襲いかかる厄介な魔物だ。

「キシャアアアアッ!」

「あちこちから魔獣が出てくる! 囲まれたぞ!」

真守が三節根を振り回し、飛びかかってくるグロッタを叩き落とす。

手応えはあるが、硬いガラスを叩いているようで腕が痺れる。

「焼き尽くしてくれる! 『ファイア・ボール』!」

デュラスが炎弾を放つが、グロッタは瞬時に鏡の中へと潜り込み、攻撃を無効化する。そして別の鏡から飛び出し、デュラスの背後を襲う。

「チッ、小賢しい! キリが無いな!」

「ど、どうすれば……! 私の盾じゃ、全方位は防げません~!」

エルミナが聖盾を構えてクルクルと回るが、上下左右、360度からの波状攻撃に防戦一方だ。

倒しても倒しても、鏡がある限り奴らは湧いてくる。

「くそっ、どこかに本体か、発生源があるはずだ……!」

真守が焦る中、後衛で弓を構えていたフィリアだけは、冷静に周囲を観察していた。

彼女の目は、襲い来る魔獣ではなく、その「出処」である鏡の群れを捉えていた。

(全部の鏡から出ているわけじゃない……。魔獣が出る時、鏡面が波打つ……。でも……)

フィリアの金色の瞳が、部屋の奥にある、豪奢な額縁に飾られた一枚の鏡を捉えた。

他の鏡が波打ち、魔獣を吐き出している中で、その鏡だけは静まり返り、冷ややかにこちらの戦況を「映して」いた。

そして、その鏡の中の像だけが、微妙に――笑っているように見えた。

(あの一枚からは、魔物が出てこない。……もしや、あれが!)

「見つけた! 本星よ!」

フィリアは叫ぶと同時に、自身の赤い闘気を矢に集中させた。

風の魔力と、身体強化の闘気を螺旋状に練り上げる。

「マモル、伏せて!!」

「えっ、わあっ!?」

真守が反射的に地面に這いつくばる。

その頭上を、フィリアの必殺の一撃が駆け抜けた。

「行くわよ! 全力……チャージ・アロー!!」

ヒュゴオオオオオオッ!!

放たれた矢は、襲い来る雑魚グロッタたちを衝撃波だけで吹き飛ばし、一直線に奥の「動かない鏡」へと突き進む。

ガシャアアアアアアアンッ!!!

轟音と共に、その鏡が粉々に砕け散った。

「「「ギャアアアアアッ!?」」」

その瞬間、部屋中を飛び回っていたグロッタたちが、一斉に苦悶の声を上げ、ガラス細工が崩れるように砂となって消滅した。

波打っていた周囲の鏡も、ただの物言わぬ鏡に戻った。

「……消えた?」

真守が顔を上げ、周囲を見渡す。

「やった! 大当たり!」

フィリアが弓を掲げてガッツポーズをする。

「すごいですフィリアさん! どうして分かったんですか?」

「へへん。あの鏡だけ、魔物を出さずに高みの見物をしていたからね。司令塔だと思ったの」

「なるほど。観察眼の勝利だな。助かったよ、フィリア」

真守がフィリアの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。

デュラスも砕けた鏡の破片を踏みしめ、ニヤリと笑った。

「鏡像をいくら叩いても意味はない、か。本質を見抜く目……良い腕だ」

鏡の迷宮という幻惑の罠を、フィリアの射手としての直感が打ち破った。

チームワークは確実に向上している。

真守たちは自信を深め、さらに奥へと進んでいくのだった。

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