EP 39
ユリアンから超高級収納ポーチを大人買いし、装備も万端となった真守一行。
意気揚々とキュルリン・ダンジョンの入口に到着すると、そこにはまたしても見慣れた――そしてあまり見たくない――光景が広がっていた。
「……また居るよ」
ゲートの前には、ルナミス帝国騎士団が陣取っていた。
彼らはダンジョンに入るわけでもなく、ただ入口を固めて威圧感を放っているだけだ。
真守たちに気づくと、レオパルド団長がわざとらしい笑顔を貼り付けて歩み寄ってきた。
「いやいや、マモル殿。Cランク昇級、おめでとうございます。昨日の今日で昇格とは、ギルドも随分と粋な計らいをするものですな」
口では祝っているが、目は全く笑っていない。内心では「なぜ平民風情が」と腸が煮えくり返っているのが見え見えだ。
以前の真守なら萎縮していただろうが、今の彼は違う。億万長者で、Cランク冒険者で、魔王級のバックがついている。
真守はポーチの紐を弄りながら、呆れたように言った。
「ありがとうございます。……でも、レオパルド団長。ずっとダンジョン前で待ってるんですか? 暇なんですか?」
「ぐっ……! ひ、暇とは心外な!」
レオパルドが顔を引きつらせる。
「我々は帝国の勅命により、この危険なダンジョンの安全と管理を任されているのです。不審な魔物が外に出ないよう、こうして監視しているのですよ」
「ほう、監視か。ご苦労なことだ」
デュラスが真守の横に並び、レオパルドを見下ろした。その口元には、冷ややかな嘲笑が浮かんでいる。
「だが、それほど精強で勇敢な騎士団なら、入口で番犬をするより、さっさとダンジョンを攻略して元を絶てば良いのでは? その方が帝国の威光も示せるだろうに」
痛いところを突かれたレオパルドは、脂汗を流しながら視線を泳がせた。
「くっ……! あ、生憎、私共も調査を万全にしないことには、兵を動かせませんのでな! 無闇な突撃は蛮勇というものです!」
「なるほど、調査か。流石は団長殿だ」
デュラスは感心したふりをして、大袈裟に頷いてみせた。
「部下の安全……いや、自分の安全を守る事に必死で、一歩も動けないとは。その慎重さ(臆病さ)、指揮官の鑑ですな」
「き、貴様ぁ……!!」
レオパルドが顔を真っ赤にして剣の柄に手をかける。
しかし、デュラスから放たれる圧倒的な覇気と、背後のエルミナやフィリアの冷たい視線に射すくめられ、抜くことはできない。
真守はそんなレオパルドに興味を失ったように、軽く手を振った。
「ま、調査頑張ってください。……俺たちは、お先に中のお宝を取りに行くので。指をくわえて待っていてくださいね」
「なっ……!?」
真守たちはレオパルドの横を堂々と通り過ぎ、暗いダンジョンの口へと吸い込まれていった。
背後では、何も言い返せないレオパルドが、地団駄を踏んでいる気配がした。
◇
ダンジョンの第一階層(クリア済みエリア)を抜け、第二階層への階段を下りながら、フィリアがクスリと笑った。
「ねぇマモル。……なんだか、段々と毒舌になってきたわね?」
以前の、温厚で事なかれ主義だった教師の面影は薄れ、相手を言葉で刺す度胸がついてきている。
「本当ですぅ。あの団長さん、顔がトマトみたいになってましたよ~」
エルミナもクスクスと笑う。
真守は苦笑して、肩をすくめた。
「そうかな? ……まあ、デュラスと一緒にいると、嫌でも性格が移るのかもな。それに……」
真守は腰の『王帝』を軽く叩いた。
「舐められたら終わりだ。言う時は言わないとな」
「フッ、良い傾向だ。悪党(権力者)を相手にするには、清廉潔白なだけでは勝てんよ」
デュラスが満足げに紫煙を吐き出す。
たくましく、そして少しだけふてぶてしくなったリーダーを中心に、一行は未知なる第二階層へと足を踏み入れた。




