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EP 38

ピザマネー(一億円)という、庶民には想像もつかない大金を手に入れた翌日。

真守たちは装備を整え、再び冒険者ギルド・アルニア支部を訪れていた。

ギルドの扉を開けた瞬間、それまでガヤガヤと騒がしかった酒場エリアが、水を打ったように静まり返った。

「……おい、あれだろ? 『ピザ長者』のパーティ」

「S級ダンジョンの一層を初日で抜いたっていう……」

「あの黒コートの男、魔族じゃねぇか? 怖くて目が合わせられねぇ……」

ざわざわ……ざわざわ……。

畏敬、嫉妬、好奇心。様々な視線が突き刺さるが、当の本人たちは全く意に介していない。

真守は真っ直ぐに受付カウンターへと向かった。

「おはようございます」

「ひぃっ!? ……あ、いや、おはようございます! マモル様!」

受付嬢がビクリと震え、背筋を伸ばして直立不動になる。Cランク昇格と億万長者の噂は、職員の間でもトップニュースなのだ。

「今日は第二階層へ進みたいんです。次の階層へのルート情報の開示と、侵入許可を願い出たいんですが」

真守が淡々と告げる。

通常、一層の攻略後はしばらく休息を取ったり、素材集めをするのがセオリーだ。翌日に即二層へ挑むパーティなど聞いたことがない。

「に、二層ですか!? まだ一層の地図も完成していないのに!?」

「ええ。俺たちが地図を作ってきますよ」

受付嬢は許容量を超えたのか、顔面蒼白になって奥へ向かって叫んだ。

「は、ハイ! すぐに確認します! ……ギルマスターーーッ! ギルドマスターーーッ!! マモル様がまた無茶をーーっ!!」

奥の部屋から「胃薬が足りん!」というアルマスの悲鳴が聞こえた気がしたが、真守たちは手続きを強引に済ませ、ギルドを後にした。

   ◇

「やれやれ、有名になるのも考えものだな」

「フッ、英雄とは常に孤独で騒がしいものだ」

真守とデュラスがそんな話をしながら、ダンジョンへの街道を歩き始めた時だった。

「あらぁ、マモル様。精が出ますわね」

ふわりと甘い香水の香りが漂い、またしてもゴルド商会のユリアンが現れた。

今日は冒険者向けの機能的な、しかし高級素材を使ったドレスに身を包んでいる。

「これはユリアンさん。また何か商談ですか?」

真守が足を止める。ユリアンは妖艶に微笑み、真守の腰回りを見た。

「ええ。……マモル様、これからダンジョンの深層へ行かれるのでしょう? ですが、その装備……少し『収納』が心もとないのではなくて?」

「収納? まあ、俺のスキルで出したり消したり出来るから……」

「いいえ! プラチナランクの商人が、荷物を手で持ったり、スキルを公衆の面前で多用するのは美しくありません(手の内を晒すことになりますし)」

ユリアンはそう言うと、持っていたトレイの布をめくった。

そこには、刺繍が施された革製のポーチが四つ並んでいた。

「これは『魔法収納ポーチ(マジック・ポーチ)』。見た目は小さいですが、中には馬車一台分の荷物が入ります。しかも時間停止機能付きで、食料も腐りません」

「へぇ、所謂アイテムボックスか。便利そうだな」

真守は感心した。自分のスキルは「建築資材」や「購入品」を出すのは得意だが、ダンジョンで拾ったドロップ品をしまうには、確かに専用の収納があった方がいい。フィリアたちにも持たせられる。

「商人の必須アイテムですよ。……今なら、お一つ『30万円』でご提供させていただきます」

「30万か。安いな」

真守は迷わず懐から札束(昨日のピザの売上の一部)を取り出した。

「4つ貰おう。120万だ」

「まいどあり~! 流石はマモル様、決断が早い!」

ユリアンは満面の笑みで金を受け取り、ポーチを渡した。

商談時間はわずか10秒。

その光景を見ていたフィリアが、口をあんぐりと開けて固まっていた。

「さ、30万……? 小さなポーチが30万……?」

「フィリア、これあげるよ。矢とか薬草とか入れとくといい」

真守からポンと高級ポーチを投げ渡される。

「えっ、あ、うん、ありがとう……。でもこれ、普通の家なら半年暮らせる金額……」

フィリアはポーチを握りしめ、遠い目をした。

「昨日の一億といい、今日の衝動買いといい……マモルの金銭感覚が、どんどん壊れていくよぉ……」

「あらフィリアさん、便利ですわよ~! お菓子がいっぱい入ります!」

エルミナが早速ポテチを詰め込んでいるのを見て、フィリアは「もう、どうにでもなあれ」と諦めの境地に達した。

「準備万端だな。行くぞ、二層へ!」

「おう!」

金と力の力技で装備を整えた一行は、意気揚々とキュルリン・ダンジョンへと足を進めた。

背後では、ユリアンが九本の尻尾を隠すことなく振って、「またのお越しを~(カモネギ様~)」と手を振っていた。

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