EP 34
暗黒騎士が消滅し、ボス部屋に静寂が戻った。
部屋の中央、コアが砕け散った場所には、勝者への報酬として豪奢な装飾が施された『黄金の宝箱』がポップしていた。
「すっごーい! 金色の宝箱だよ!」
「中身は何でしょう? キュルリンさんのコレクションですから、期待できますね」
フィリアとエルミナが宝箱に駆け寄ろうとした、その時だった。
パチ、パチ、パチ……。
わざとらしい拍手の音が、入口の方から響いてきた。
「おお、良くやったぞ。まさかあの化け物を倒すとはな」
ぞろぞろと現れたのは、安全な場所で戦いが終わるのを待っていたレオパルド率いる騎士団だった。レオパルドは宝箱を脂下がった目で見つめ、部下たちに顎で合図を送った。
「さて、回収だ。……これより、その宝は我等ルナミス騎士団の物とする」
「……は?」
真守が耳を疑う。
自分たちは命がけで戦った。レオパルドたちはただ見ていただけだ。
「そ、そんな横暴な! 私達が倒したんですよ!?」
フィリアが憤って抗議する。しかし、レオパルドは鼻で笑い、赤いマントを翻した。
「黙れ、平民が。我等はルナミス帝国に仕える栄えある騎士団だ。そしてここはルナミス帝国の領地! 領内で出た資源、財宝、全ては国に帰属する。我等が貰うのは当然の権利だ」
「権利、か……」
レオパルドが部下に宝箱を持ち上げさせようとした瞬間、デュラスが静かに、しかし威圧的に割って入った。
「レオパルド殿。……少し、法と道理について勉強が足りないようだな」
「何だと?」
「我等は冒険者ギルドの依頼を受け、正式な手続きを経て、このダンジョンの調査・攻略をしている」
デュラスは懐から、先程アルマスから受け取った『冒険者登録証』と『クエスト受注書』を提示した。
「冒険者ギルドと各国家の間には、『迷宮法』という条約があるはずだ。正規の冒険者が獲得したドロップ品の所有権は、第一義的に発見者にある。……貴公に、その冒険者ギルドの権限と国際条約を壊す道理が有るのですかな?」
「ぐっ……それは……」
レオパルドが言葉に詰まる。
ギルドは国家を超えた組織だ。そのルールを軍部が一方的に破れば、国際問題になりかねない。
そこに、真守が追い打ちをかけるように、わざとらしく首を傾げてみせた。
「それにさ、レオパルドさん。冒険者ギルドの権限や活動を認めたのは、他ならぬルナミス皇帝陛下ですよね?」
「な、何が言いたい」
「いやぁ、簡単な話ですよ。陛下が認めた『ギルドのルール』を、現場の一騎士団長が勝手に『壊す』ってことは……それ、陛下への裏切り、つまり反逆行為になっちゃうんじゃないんすかねぇ?」
真守の言葉は、鋭利な刃となってレオパルドの喉元に突き刺さった。
「は、反逆……だと!?」
「ええ。この事を帝都に報告したらどうなるかな。『レオパルド団長は、皇帝陛下の定めた法よりも、自分の欲を優先しました』って」
「な、なな、何を馬鹿な……!」
レオパルドの顔から血の気が引く。
「反逆罪」となれば、打ち首は免れない。
周りの部下たちも、「えっ、これマズいんじゃ……」という空気で動揺し、宝箱から手を離し始めた。
デュラスが冷ややかに畳み掛ける。
「さあ、どうされますか? このまま強奪を働き、皇帝陛下に弓引く逆賊となるか……それとも、騎士らしく潔く引き下がるか」
「くっ、くそぉぉぉ……!!」
レオパルドはギリギリと歯を食いしばり、宝箱と真守たちを交互に睨みつけた。
だが、論理と権威の挟み撃ちに、彼に勝ち目はなかった。
「……し、失礼する! 巡回に戻るだけだ!」
レオパルドは顔を真っ赤にして叫ぶと、踵を返して逃げるようにその場を去っていった。
部下たちも慌てて後を追う。
嵐が去り、再び静寂が戻った。
「……失礼はどっちよ。本当に嫌な人」
フィリアが呆れたようにため息をつく。
「本当ですわ。神罰が下るのも時間の問題ですね」
エルミナも同意する。
真守は肩をすくめ、デュラスと顔を見合わせた。
「デュラス、大丈夫かよ? あいつ、完全に俺たちを逆恨みしたぞ」
「ふん。あの手合いは何処にでも居る。吠えるだけで噛みつく勇気もない犬だ。放っておけ」
デュラスは宝箱の方を向き、ニヤリと笑った。
「それより、マモル。戦利品の確認といこうじゃないか。あんな小物の相手より、よほど建設的だ」
「そうだな!」
真守たちは黄金の宝箱を開けた。
中から溢れ出したのは、見たこともない輝きの宝石と、古代の魔道具たち。
邪魔者を撃退し、お宝もゲット。
真守たちのダンジョン攻略は、幸先の良い(?)スタートを切ったのだった。




