EP 33
暗黒騎士の猛攻は、凄まじさを増すばかりだった。
心臓を貫かれても動きが止まらないどころか、その剣速は常軌を逸した領域へと加速していた。
「くっ、はぁっ……!」
エルミナが聖盾で受け止めるが、衝撃で足が地面にめり込む。
真守が側面から三節根を叩き込むが、デュラハンはそれを避けようともしない。自分の腕ごと真守を斬ろうとしてくる。
「おかしいぞ、こいつ……! 段々と自分の防御を無視してきやがった!」
真守がバックステップで刃を豋しながら叫ぶ。
生物としての生存本能が欠如している。相打ち覚悟の特攻スタイルだ。
「ええ……! この騎士さんに攻撃しても意味が無いのですわ! まるで、遠隔操作された人形と戦っているような……!」
エルミナの悲鳴に近い分析。
それを後方で聞いていたデュラスが、ふと攻撃の手を止めた。
「……人形、か。なるほど」
デュラスは目を閉じ、戦場の喧騒の中で精神を集中させる。
視覚に頼らず、魔力の糸を追う。あの鎧を動かしている動力源はどこだ? 鎧の中か? 剣か?
……否。
「……居た! 地中の中だ!」
デュラスがカッと目を見開き、手にした愛用の鞭(乗馬用の短鞭に魔力を込めたもの)を地面に向けて振り下ろした。
「隠れんぼは終わりだ! 地よ切り裂け! アース・ボムズ!!」
ドゴォォォォォォォンッ!!
デュラスの鞭が地面を叩くと、まるで爆雷が炸裂したかのように石畳が隆起し、土砂が噴き上がった。
地面がめくれ上がり、その土煙の中から、ボトッ……と何かが飛び出した。
それは、無数の血管のような根を生やした、赤黒く脈打つ不気味な心臓だった。
「ギギギッ!?」
土から引きずり出されたコアが、不快な音を立てて身をよじる。
同時に、デュラハンの動きがピタリと止まった。
「出た! あれが本体よ!」
フィリアが鋭い視線でそれを捉え、指差す。
本体が露出した今が、千載一遇の好機。
「マモル! 今よ!」
「おうっ!」
真守は『王帝』を構え、深く踏み込んだ。
彼の意思に呼応するように、三節根の第一節――フィリアの闘気が込められた部分――が、カッと熱く輝き始める。
(頼むぞ、王帝! 俺たちの道を切り開け!)
ブォォォォォォン……!
『王帝』が唸りを上げる。それは単なる武器の振動ではなく、主の魂に共鳴する咆哮だった。
紅蓮の光が刀身を包み込み、巨大な気の杭を形成する。
「王帝よ! 力を貸せ!」
真守は腰を落とし、全身のバネを使って、その切っ先を突き出した。
「これが俺たちの必殺技だ! くらえ……王帝・王牙突き(おうがづき)!!」
ズドォォォォォォォォォン!!!
放たれた紅き衝撃波は、牙を剥く狼のように空を裂き、空中に浮いていた醜悪なコアを真正面から捉えた。
「ギャアアアアアアアアッ!?」
断末魔と共に、コアが光の中で蒸発する。
本体を失った瞬間、今まで暴れまわっていた暗黒騎士の鎧が、糸の切れた操り人形のようにガシャン! と崩れ落ちた。
黒い霧となって鎧が消滅し、あとには静寂だけが残った。
「……はぁ、はぁ……」
真守が残心を解き、汗を拭う。
数秒の沈黙の後、フィリアが飛びついてきた。
「やったぁ! マモル、すごい威力!」
「勝ちました……! あの不死身の騎士を倒しましたわ!」
エルミナもへたり込みながら、安堵の笑顔を見せる。
デュラスは崩れた地面を眺めながら、満足げに鞭を収めた。
「ふん。地中に本体を隠して、無敵の鎧を操るとはな。キュルリンらしい陰湿なギミックだ。……だが、マモルのあの一撃、悪くなかったぞ」
「ああ……みんなのおかげだ。一人じゃ気付けなかったし、倒せなかった」
真守は仲間たちを見渡し、ニカッと笑った。
第一階層ボス撃破。
Sランクへの道、そしてローン完済への道が、また一歩近づいた瞬間だった。




