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EP 31

レオパルド騎士団の不愉快な検問を抜け、真守たちはついにキュルリン・ダンジョンの第一階層へと足を踏み入れた。

外の光が届かない石造りの通路は、ひんやりと冷たく、どこかカビ臭い。壁には等間隔で魔法灯が設置されているが、その頼りない明かりが逆に影を濃くし、不安を煽る。

「……さすがは『激ムズ』を謳うだけあるな。入った瞬間から空気が違う」

真守が腰の『王帝』の柄に手をかけ、警戒しながら進む。

先頭は真守、中央にエルミナ、後衛にフィリア、そして殿しんがりをデュラスが務める陣形だ。

「キュルリンさんの性格の悪さが滲み出ていますね……。いつ何が飛び出してきてもおかしくありません」

エルミナが聖杖を握りしめ、キョロキョロと周囲を見回す。

その時だった。

カチリ。

真守が踏み出した足元の石畳が、わずかに沈んだ。

「!」

「シュォォォォォ……ッ!」

警告する暇もなかった。通路の両脇の壁に空いた小さな穴から、毒々しい紫色の霧が一気に噴き出した。甘ったるい、腐臭を伴う猛毒の霧だ。

「きゃあっ!?」

「毒霧!? マモル、下がって!」

フィリアが叫び、口元を覆う。狭い通路は瞬く間に視界ゼロの状態に陥った。

「ゴホッ、ゲホッ……! くそっ、いきなりかよ!」

「皆さん、動かないで! 私が浄化します!」

パニックになりかけたその場を、エルミナの凛とした声が制した。彼女は杖を高く掲げ、神聖な魔力を練り上げる。

「大気よ、穢れを祓い、清浄なる衣を纏え! 清浄化魔法ピュアリー!!」

カァァァッ!

エルミナを中心に、眩い純白の光の波紋が広がった。

光が触れた端から、紫色の毒霧がシュワシュワと音を立てて中和され、透明な空気へと変わっていく。数秒後には、通路は何事もなかったかのようにクリアになっていた。

「ふぅ……。間に合いました~。皆さん、大丈夫ですか?」

「ああ、助かったよエルミナ。さすが聖騎士だ、頼りになる」

真守が礼を言うと、エルミナは「えへへ」と照れくさそうに笑った。

しかし、安堵したのも束の間。

毒霧の噴出音で、こちらの位置がバレたのだろう。通路の奥から、機械的な駆動音が響いた。

ジャラララッ……ガシャン!

「次は物理トラップか!」

「……来るわ!」

フィリアが弓を構え、矢をつがえる。

通路の突き当たりの壁に、無数の小さな穴が開いた。そこから、金属製の鋭利な矢じりが顔を覗かせる。

ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!

一斉に放たれた矢の雨が、真守たちに襲いかかる。

「くっ……!」

「鷹のホーク・アイ!!」

真守が『王帝』で矢を叩き落とそうとした瞬間、フィリアの瞳が金色に輝いた。

彼女の視界の中で、スローモーションのように迫る矢の軌道と、その発射口が鮮明に浮かび上がる。

「そこっ!」

フィリアは目にも止まらぬ速さで、四本の矢を同時に放った。

ドォォォンッ!!

彼女の放った矢は、迫りくる敵の矢を空中で弾き飛ばしただけではなかった。そのまま一直線に飛び、壁の発射口の装置そのものに深々と突き刺さったのだ。

ガガガッ……ブスン。

発射機構が破壊され、矢の雨がピタリと止む。

「すごい……。発射口を正確に狙撃して封じたのか?」

「えへへ、マモルとの連携練習の成果だよ!」

フィリアがVサインを作る。

「やれやれ。騒がしい連中だ」

二連続のトラップを切り抜け、息をつく暇もなく、今度は天井の梁から不快な笑い声が降ってきた。

「キキキッ!」「ケケケッ! 新入りだ!」「壊せ! 奪え!」

現れたのは、小柄だが醜悪な顔つきの小鬼の群れ。長い爪と牙を持つ、グレムリンだ。彼らは集団で襲いかかり、装備を破壊したり混乱させたりする厄介な魔物だ。

「わぁっ! グレムリンです! 数が多い!」

「チッ、うっとうしい羽虫どもが……」

群がり、飛びかかろうとするグレムリンたちを見て、最後尾のデュラスが面倒くさそうにため息をついた。

「私の視界を遮るな。目障りだ」

デュラスが軽く片手を上げる。

その掌に、圧縮された魔力の塊――紅蓮の炎が渦を巻いた。

「灰となれ。紅蓮のクリムゾン・フレア

ゴォォォォォォォォッ!!!

デュラスが腕を振るうと、通路全体を埋め尽くすほどの灼熱の奔流が解き放たれた。

それは「魔法」というよりは、一方的な「災害」だった。

「「「ギャアアアアアッ!?」」」

先頭のグレムリンたちが断末魔を上げる暇もなく、瞬時に消し炭となる。後続のグレムリンたちも、炎の勢いに巻き込まれ、逃げることすら許されずに灰と化した。

炎が収まると、そこには焦げた壁と、さらさらと崩れる灰の山だけが残っていた。

「……ふん。準備運動にもならん」

デュラスが何事もなかったように、コートの埃を払う。

「「「……」」」

あまりの威力に、真守たちは言葉を失った。

これが魔界の公爵の実力。S級ダンジョンの序盤の魔物など、彼にとっては道端の石ころ以下の存在らしい。

「……よし! みんな、いい連携だった! この調子でガンガン進むぞ!」

真守が気を取り直して声を上げると、全員が力強く頷いた。

規格外のパーティーによる、ダンジョン攻略が本格的に幕を開けた。

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