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EP 29

冒険者ギルド・アルニア支部。

かつては閑古鳥が鳴いていたその場所は、今やダンジョン特需に沸く冒険者たちでごった返していた。

剣呑な空気と怒号が飛び交う中、真守たちは受付を通り越し、ギルドマスター室の扉を叩いた。

「あの~、失礼します」

真守が扉を開けると、そこには書類の山に埋もれながら、必死に胃薬を噛み砕く人狼族の男――支部長アルマスがいた。

「……ん? どなたかな」

アルマスは疲れた目を上げたが、真守の顔を見た瞬間、その表情が一変した。

彼はガバッと椅子から立ち上がり、人狼特有の鋭い嗅覚ならぬ情報網を披露した。

「おお! これはこれは、ゴルド商会と提携された『プラチナランク』のマモル殿ではありませんか!」

その言葉に、真守は目を丸くした。

「えっ? もう知ってるんですか? 昨日決まったばかりなのに」

「耳が早いな。流石はアルマス殿だ」

デュラスがニヤリと笑う。アルマスは苦笑しながら、どうぞとお茶を勧めた。

「ハハハ、この村の事は全て調べていますから。ギルドマスターとして当たり前の事です。……特に、貴殿の住む『白い屋敷』とか、そこに出入りする『規格外の方々』のことはね」

アルマスの視線が、一瞬だけデュラス(魔族公爵)とエルミナ(天使)に向けられる。彼は「私は何も気づいていない」という顔で、あえて深くは突っ込まなかった。賢明な判断である。

「して、本日はどのようなご用件で? 商会の次は、我がギルドへの資材提供のお話ですかな?」

「いえ、今日は商売の話じゃありません」

真守は居住まいを正し、真っ直ぐにアルマスを見つめた。

「冒険者登録をしたいんです」

「……は?」

アルマスの動きが止まった。

「な、何と!? プラチナの商人様が、冒険者に? 護衛を雇うのではなく、自らが泥にまみれて戦うと? 何と酔狂な事か……」

常識ではありえない。プラチナランクの商人は、王族と茶を飲むのが仕事であり、モンスターと殴り合うのは下々の仕事だ。

「アルマス殿がどこまで知っているかは存ぜぬが……。我々は冒険をしたい。あのダンジョンに入り、攻略したい。……それだけの事なのだよ」

デュラスが低い声で補足する。

真守も頷く。

「はい。それだけの事なんです」

アルマスは、真守の瞳の奥にある「意志」を探るように見つめた。

ただの酔狂ではない。この男は、何か大きな目的のために「力」を求めている。

「……ほぉ。なるほど。マモル殿のお立場を考えると、金やコネだけでなく、色々と『飾り(武名)』が必要ですからな」

「ご明察、痛み入る」

デュラスが畳み掛ける。

「我々はダンジョンを攻略し、実績を作る。冒険者ギルドは、その成果としてダンジョンからの資源や、攻略の『旨味』を得られる。……悪い話ではないはずだ」

アルマスは腕を組み、数秒考え込んだ後、ニッと口元を緩めた。犬歯が光る。

「……分かりました。マモル殿のような方が味方に付けば、我がギルドにとっても百人力だ。あの高慢な騎士団共に一泡吹かせることも出来るでしょう」

アルマスは引き出しから、登録用紙と数枚の金属プレートを取り出した。

「冒険者登録を認めましょう。通常はFランク(見習い)からですが……貴殿の実力と『期待』を込めて、Eランクからのスタートとさせていただきます」

「ありがとうございます!」

「Eランク……。悪くないスタートだな」

真守たちは手続きを済ませ、それぞれの名前が刻まれたドッグタグのようなプレートを受け取った。

「良かった~! これで私も冒険者デビューだね!」

「本当に。マモル様とのパーティ結成、身が引き締まります!」

フィリアとエルミナがプレートを太陽にかざして喜ぶ。

これで、堂々とダンジョンに入ることができる。

「では、頼みましたぞ、マモル殿。……くれぐれも、死なないように」

「ええ、肝に銘じます」

ギルドを出た真守たちの足取りは軽かった。

商人としての「盾」と、冒険者としての「剣」。

二つの武器を手に入れた彼らは、いよいよキュルリンの待つ「激ムズ・ダンジョン」へと向かうのであった。

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