EP 27
ゴルド商会での緊張感あふれる商談を終え、真守たちはマイホームへと帰還した。
電子ロックが解除され、涼しいリビングに入った瞬間、真守はソファに倒れ込んだ。
「ふう……疲れたなぁ。商談ってのは、リザードマンと戦うより神経を使うよ」
「ククク……。だが、うまくいったな。あの女狐に首輪をつけるどころか、最高ランクの盾を手に入れた」
デュラスも上機嫌でソファに座り、ネクタイを緩める。
そこへ、エプロン姿のフィリアが湯気の立つカップを運んできた。
「ハイ、マモル。特製の薬草茶だよ。疲れが取れるから」
「ありがとう、フィリア。……あ~、染みる」
香ばしい香りと温かさが、張り詰めていた神経を解きほぐしていく。
エルミナもポテチの袋を開けながら、安堵の息を吐いた。
「これでもう安心ですね! プラチナランクの証があれば、あの嫌な騎士団長さんも手出しできませんし、平穏な日々が戻ってきます!」
「……いや。まだ、緩いな」
その場の空気を引き締めるように、デュラスが低い声で遮った。
「えっ?」
「どういうことだ、デュラス?」
デュラスは真剣な眼差しで真守を見据えた。
「プラチナの称号は確かに強力だ。商会連合という巨大な後ろ盾を得た。だが……これからマモルは、間違いなく『今以上の物』を出してくるだろう?」
「うっ……」
真守は言葉に詰まる。
バイク、エアコン、次は冷蔵庫か、それとも重機か。
自身のスキルと地球の知識がある限り、文明レベルを無視した発明は止まらない。
「お前が生み出す物は、国のパワーバランスすら崩しかねない。そうなれば、商会の威光だけでは抑えきれん。帝国が『国家反逆罪』や『保安上の理由』をでっち上げて、強引に軍事介入してくる可能性は残る」
「……もっと強固な地位が必要だ、と?」
「あぁ。商人としての盾だけでは足りん。個人の『武力』としての絶対的な証明が必要だ」
デュラスはニヤリと笑い、指を立てた。
「商業ギルドの協力は得た。次は冒険者ギルドだ。それも……『Sランク』とかな」
「ええええええっ!?」
フィリアが素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。
「S、Sランクぅぅ!? 無理だよ! 大陸に数人しかいない、生ける伝説だよ!? マモルは先生でしょ!?」
「勇者や英雄になれってか!? 俺はただのローン持ちだぞ!」
真守も抗議する。Sランクといえば、単身でドラゴンを狩り、国一つを救うレベルの化け物だ。
「そうさ。だが、お前にはその素質がある。……そして、丁度いい『ステージ』が用意されたじゃないか」
デュラスは窓の外、森の方角を顎でしゃくった。
「キュルリンが作り出した、超高難易度ダンジョン。……あれをお前が制覇すれば、文句なしでSランクだ」
「なっ……!」
「考えてもみろ。あのダンジョンは、神や魔王ですら楽しむレベルだ。それを初見で攻略したとなれば、騎士団長ごときが口出しできるレベルではなくなる。『世界を救う英雄』として、不可侵の存在になれるぞ」
真守はゴクリと唾を飲み込んだ。
最強の武器『王帝』はある。
最強の仲間(フィリア、エルミナ、デュラス)もいる。
そして何より、あのダンジョンを放置すれば、いずれ村に害が及ぶ。
「……なるほどな。経済面だけでなく、武力面でも頂点に立てば、誰も俺を『道具』として扱えなくなる」
「そういうことだ。それに……あのダンジョンの最深部には、キュルリンが集めた『国宝級の宝』があると言っていただろう? ローンの一括返済も夢じゃないぞ?」
その言葉が、真守の背中を強烈に押した。
「……分かった。やってやるよ」
真守は立ち上がり、拳を握りしめた。
「俺たちで、あのクソ妖精のダンジョンを攻略する! 目指すはSランク、そしてローン完済だ!」
「おぉっ! やりますよマスター! 私がメインタンクです!」
「マモルがやるなら……私も頑張る! 弓で援護するね!」
「フッ……退屈しのぎには最高の舞台だ」
こうして、マイホームでの作戦会議は終了した。
次なる目標は、キュルリン・ダンジョンの完全攻略。
異世界最強の「教師」と「仲間たち」による、伝説への挑戦が始まろうとしていた。




