EP 24
真守の家のリビング。
外はダンジョン特需の喧騒と夏の暑さが入り混じっているが、室内はエアコンのおかげで天国のように涼しい。
「……ふむ。涼しい。やはりこの『エアコン』という魔道具は至宝だな」
デュラスがソファでくつろぎながら、満足げに呟く。
真守はそのエアコンの送風口を見つめながら、ふと口を開いた。
「ねぇ、デュラス。……この世界の技術で、クーラーって作れないのかな?」
「何?」
デュラスが怪訝な顔をする。
真守は身を乗り出し、説明を始めた。
「いや、このエアコンみたいな完全な機械は無理でも、理屈は応用できるんじゃないかと思ってさ。クーラーの原理は『気化熱』だ。液体が気体になる時に熱を奪う現象を利用している」
「キカネツ……? 難しい言葉だな」
フィリアとエルミナが首を傾げる。
「簡単に言えば、濡れた肌に風が当たると涼しいだろ? あれと同じだ。電気の代わりに『魔力』を、コンプレッサーの代わりに『風魔法』と『氷魔法』の魔石を使えば、似たような物は作れるんじゃないか?」
真守は続けた。
「俺の世界の昔は、暑い時にはデカい氷を家庭に売って、それを箱に入れて冷やしてたんだ。『冷蔵庫』の前身だな。だから、完全なエアコンじゃなくても、氷魔法を使った『保冷庫』や、風を送る『冷風機』なら、ドワーフの技術と魔法で作れるはずだ」
真守の目は、エンジニアのような輝きを帯びていた。
「でも、急に何で?」
フィリアが尋ねる。
今の生活には、真守のスキルで出した家電がある。わざわざ作る必要はないはずだ。
「うんうん、マモル様の家は快適ですもの」
エルミナもポテチを食べながら同意する。
真守はニヤリと笑い、デュラスを見た。
「さっきの話の続きだよ。俺が国に目をつけられても『打たれない』為には……『出過ぎた杭』になる為にはどうするか」
真守は拳を握った。
「俺を中心とした、代わりの利かない『経済網』を作ればいいと思うんだ」
「……ほう?」
デュラスの目が鋭く光る。
「この暑い世界で、『スイッチ一つで涼しくなる道具』を売り出す。貴族や王族、金持ち商人にバラ撒くんだ。メンテナンスや魔石の供給を含めて、俺(と仲間たち)がいないと維持できないシステムにする」
もし、真守を拘束すれば、国中のクーラーが止まる。
一度知ってしまった「涼しさ」を奪われることを、権力者たちは何より恐れるだろう。
「それなら……国も簡単には拘束したりはしないな。手出しもしにくくなる。むしろ、マモルを保護して機嫌を取ろうとするはずだ。国も潤うしな」
デュラスが感心したように頷く。
「この快適さを知れば……誰も抗えなくなるわね。特に、贅沢に慣れた貴族様たちは」
フィリアがエアコンの風を浴びながら、恐ろしい事実に気づいたように言った。
夏の暑い盛りに、キンキンに冷えた部屋を知ってしまったら、もう団扇の生活には戻れない。それはある意味、麻薬以上の依存性を持つ。
「なるほど~! 私ももう、この涼しいお部屋なしでは生きていけません~!」
エルミナがダメになった例として挙手する。
「ククク……。実に面白い。人間を堕落させて支配するとはな。魔族が好む『悪魔的発想』だ」
デュラスは楽しそうに笑い、指を鳴らした。
「いいだろう、乗ったぞ兄弟。その計画、ワイズ皇国の技術者も協力させよう。……ただし、最初の試作品は私の部屋に設置するのが条件だがな」
「交渉成立だ。ガンツ親父にも話を通さないとな」
真守は立ち上がった。
ただの便利屋で終わるつもりはない。
技術と経済で世界をハッキングする。そのための「道」が見えてきた。
「よし、行こう! 『アルニア冷熱工業(仮)』の設立だ!」
真守たちは新たな野望――世界征服ならぬ『世界冷却計画』に向けて動き出した。




