EP 23
村の喧騒から隔絶された、真守のマイホーム。
遮音性の高いペアガラスと断熱材のおかげで、外の槌音は嘘のように聞こえない。
リビングでは、いつもの四人が深刻な顔(ただしテーブルには高級なお茶菓子)で話し合っていた。
「騎士団に、冒険者ギルドに、ゴルド商会ねぇ……。役者が揃いすぎだろ」
真守はソファに深く沈み込み、天井を見上げた。
ただの村おこしを手伝うつもりだったが、事態は国家レベルの利権争いに発展しつつある。
デュラスが低い声で、紫煙を吐き出しながら告げた。
「マモル。忠告だ。……これから、お前は表立って動くな」
いつもは競馬新聞を読んでいるだけの昼行灯のような男だが、今の彼は冷徹なワイズ皇国の公爵の顔をしていた。
「何故ですの? マモル様が指揮を執ったほうが、村の復興は早いですわ」
「ん~? 私もマモルがリーダーの方が安心だけどなぁ」
エルミナとフィリアが不思議そうにするが、デュラスは首を横に振った。
「マモルの力は異質すぎる。はっきり言って、このままだとマモルは帝国に拘束されるか、周りを固められて一生飼い殺しの軟禁生活だぞ」
「そ、そんな……まさか」
フィリアが息を呑む。
デュラスはモノクルを指で押し上げた。
「マモル、お前の『ユニークスキル』……一瞬で家を建て、食料を出し、未知の技術(バイクや家電)を生み出す力。これは一部の英雄や勇者が持っている希少な物と同等、いや、戦略的価値で言えばそれ以上だ」
デュラスは卓上のコーヒーカップを指差した。
「国というものは、利用価値の高い駒を野放しにするほど善人ではない。独占し、骨の髄までしゃぶり尽くそうとするのが権力者というものだ」
「そうだな~……。俺の力を知ってるのは、ここにいる俺達四人と、ガンツさん、村長、あとは一部の村人くらいか」
真守は冷静に現状を分析する。
村人たちは真守に恩義があるため口は堅いが、外部の人間――特にあのレオパルドのような男や、目ざといユリアンにバレれば、ただでは済まない。
「で、でも! その他の勇者や英雄達は? どうしてるんですか!? 軟禁? 拘束?」
エルミナが身を乗り出して尋ねる。
デュラスは皮肉な笑みを浮かべた。
「さぁな。自ら王になって国を支配するか……あるいは、女達をあてがわれ、贅沢という名の『飴』をしゃぶらされ、政治の道具として飼い慣らされているか、だな」
「うわぁ……」
「自由がないのね……」
重苦しい空気が流れる。
だが、真守だけはフッと笑った。
「俺の好きな言葉がある。『出る杭は打たれる』」
「……ええ。目立てば叩かれる、という意味ですわね」
「だがな、続きがあるんだ。『出過ぎた杭は打たれなくなる』」
真守はニヤリと笑い、腰に差していた『王帝』を軽く叩いた。
「俺は、打たれるつもりはない。向こうがその気なら、打つためのハンマーごと粉砕する準備はある」
その瞳には、かつて教師として生徒を守った時のような、あるいはそれ以上の静かな闘志が宿っていた。
頼もしすぎるその言葉に、フィリアが頬を赤らめて真守の腕に抱きついた。
「マモル……。私は貴方の味方だよ? お隣さんだもんね! 何があっても、私が弓で守ってあげる!」
「あら? 抜け駆けは良くないですよ、フィリアお姉様」
エルミナが対抗するように、反対側の腕に抱きつく。
「私だってマモルさんの味方です! 一緒に住んでるんですから、絆は深いです! 聖騎士の盾は、貴方のためのものです!」
「お、おい、重いって」
両手に花(と翼)状態で困る真守を見て、デュラスは満足げに喉を鳴らして笑った。
「ククク……。違いない。ここには規格外の杭が揃っているからな」
デュラスは新しいタバコに火をつけた。
「ふん。国と真っ向から争うのも芸がない。ここは一つ、のらりくらりと『狸』を演じるのも悪くないな」
「狸?」
「あぁ。表面上は『ただの便利な建築屋』や『村の協力者』を装い、裏で糸を引く。あの騎士団長や女狐が踊る様を、高みの見物といこうじゃないか」
「悪巧みですねぇ、公爵様」
「処世術と言ってくれ」
真守とデュラスは視線を交わし、悪い顔で笑い合った。
表向きは、田舎の村人。
しかしその実態は、世界を揺るがす力を持つ「影の支配者チーム」。
アルニア村を舞台にした、国と商会と冒険者を巻き込んだ「化かし合い」が、静かに始まろうとしていた。




