EP 22
キュルリンによる「ダンジョン発生テロ」から数日。
アルニア村は、かつてないほどの激動の時を迎えていた。
真守のスキルと、ドワーフ達の不眠不休の突貫工事により、村のメインストリートには立派な施設が次々と完成していた。
村長のラミアスは、真新しい村役場の応接室で、二人の重要人物と最終調整を行っていた。
「……胃が痛い。なんでこんな辺境の村に、S級ダンジョンなんて出来るんだ……」
胃薬代わりの薬草を噛みながら呻くのは、冒険者ギルド・アルニア支部のギルドマスター、人狼族のアルマスだ。
歴戦の古傷が残る顔は、過労とストレスで青白くなっている。
「あら、アルマス様ったら。ビジネスチャンスではありませんか。人が集まれば金が動く。金が動けば……ふふっ、楽しいことばかりですわ」
対照的に、扇子で口元を隠し、妖艶な笑みを浮かべるのはゴルド商会支店長のユリアン。
その美しい黒髪の間から覗く瞳は、¥マークならぬ金貨の輝きを放っている。彼女の背後には、見えないはずの九本の尻尾がゆらりと揺れているように見えた。
「お二人とも、どうか仲良く頼みますぞ。これからこの村は戦場になるのですから」
ラミアスが冷や汗を拭ったその時、ドアが乱暴に開かれた。
「おい、村長! 案内はどうなっている!」
金属音をガチャガチャと鳴らして入ってきたのは、派手な装飾の鎧に赤いマントを羽織った男。
ルナミス帝国騎士団・第三連隊長、レオパルドだ。
彼は部屋に入るなり、獣人のアルマスと、妖狐のユリアンを見て、露骨に鼻に皺を寄せた。
「フン……獣臭い部屋だ。これだから田舎は困る」
「……ッ」
アルマスの犬歯がピクリと反応するが、彼はグッと堪えて胃を押さえた。ユリアンは笑顔のまま、扇子を持つ手にギリッ……と力が籠もる。
「お待たせいたしました、レオパルド卿。施設の方へご案内いたします」
ラミアスは三人の間の険悪な空気を必死に無視し、彼らを外へと促した。
◇
「こちらが、新設された『冒険者ギルド・アルニア支部』および『酒場』です」
ラミアスが案内したのは、太い丸太と石材で組まれた、頑丈そのものの建物だった。
真守が提供した良質な建材と、ガンツ達の技術が光る逸品だ。
「ほう……思ったよりまともな作りだな」
レオパルドが値踏みするように壁を叩く。
「当然です。ドワーフの匠と、我が商会が卸した(真守が出した)最高級の木材を使用しておりますから」
ユリアンがすかさずアピールする。
「中は広々としており、クエストボードも完備。地下には解体所と冷凍保管庫(真守の氷魔法付与済み)もあります」
「冷凍保管庫だと……? 本部のギルドより設備がいいじゃないか……」
アルマスが驚愕して目を丸くする。これなら魔物の素材が腐る心配はない。
「そして隣接するのが、『ゴルド商会・アルニア支店』です」
こちらはガラス窓(これも真守製)がふんだんに使われた、モダンで清潔感のある店舗だ。
「素晴らしい……。これなら商品の陳列も映えますわ。……ふふ、あのマモル様、後でたっぷりと『お礼』をしませんとね(独占契約の書類を持って)」
ユリアンが舌なめずりをする。
「そして最後に、こちらが騎士団の皆様の宿舎と詰所になります」
ラミアスが案内したのは、村一番の高台に建てられた、堅牢な石造りの要塞風の建物だった。
「おお……!」
これにはレオパルドも感嘆の声を上げた。
防衛に適した立地、整然と並んだ個室、そして訓練場まで完備されている。
「悪くない。……いや、この辺境にしては上出来だ」
レオパルドは満足げに頷くと、傲岸不遜な笑みを浮かべてラミアスを見下ろした。
「よろしい。この施設は、我らルナミス帝国騎士団が『総本部』として接収する」
「は?」
「聞こえなかったか? ダンジョンの管理、およびドロップ品の査定は、全て我々が行うということだ。ギルドや商会ごときが、勝手な真似は許さんぞ?」
レオパルドの宣言に、その場の空気が凍りついた。
「……おい、騎士様よ。それはギルドの領分を侵すってことか?」
アルマスが低い声で唸る。
「あらぁ……。商会の物流を無視して、騎士団だけで運営できるとお思いで?」
ユリアンの笑顔から、スッ……とハイライトが消えた。
しかし、レオパルドは全く意に介さない。
「黙れ、下賤な亜人ども。帝国の剣である我々に逆らう気か? ……村長、最高の食事と酒を用意しろ。それと、私の部屋には花を飾れ。世話係は若い娘にしろよ?」
レオパルドは言いたい放題言って、部下を引き連れて詰所の中へと消えていった。
残された三人。
「……胃が、限界だ」
「……あの男、経済的に殺してもよろしくて?(ニッコリ)」
「ま、まぁまぁ! お二人とも落ち着いて!」
ラミアスは必死になだめながら、遠くに見える「真守の家」の方角を拝んだ。
(マモル殿……どうか、あの馬鹿な団長と鉢合わせしませんように……!)
しかし、その願いが届くはずもなく。
トラブルの種は、確実に芽吹いていたのである。




