EP 20
アルニア村の「ダンジョン特需」に向けた再開発計画は、真守のスキルのおかげで劇的なスピードで進んでいた。
「スキル発動――『素材交換』!」
真守が手をかざすと、長年放置されてボロボロになっていた空き家が、光の粒子となって瞬く間に消滅する。
[古木材×800 獲得]
[石材×400 獲得]
[HP+25,000pt 加算]
「おおお! また一軒、一瞬で更地になったぞ!」
「マモル殿は建築の神か!?」
村長ラミアスと村人たちが歓声を上げる。
通常なら数日かかる解体作業が数秒で終わり、しかも廃材が出ない。村にとっては魔法のような奇跡だったが、真守にとっては「ポイント稼ぎ」のボーナスタイムだった。
「ふぅ……。これで村の空き家は粗方片付いたな」
真守は汗を拭いながら、ウィンドウを確認する。
溜まりに溜まったポイント残高は、もはや家のローン数ヶ月分を優に超え、豪遊できるレベルに達していた。
(……よし。これだけあれば、アレが出せる)
真守はずっと欲しかった「足」を購入する決意を固めた。
徒歩移動は疲れるし、ロックバイソンは飼育が大変だ。何より、男のロマンが疼く。
「みんな、ちょっと下がっててくれ。デカいのが出るぞ」
真守が広い更地の真ん中で操作を行う。
[購入:大型オフロードバイク(サイドカー仕様・ミリタリーグリーン)]
ズンッ!!
重量感のある着地音と共に、鉄の塊が現れた。
無骨なフレーム、泥道をものともしないブロックタイヤ、そして本体の横に接続された頑丈な側車。
排気量750cc、水平対向エンジンを搭載した、陸の王者だ。
「な、なんだこれは……!?」
真っ先に食いついたのは、やはり鍛冶師のガンツだった。
彼は少年のように目を輝かせ、震える手でエンジン部分に触れる。
「鉄の……馬か? いや、この精巧な金属パーツの集合体……『内燃機関』とかいうやつか!? 美しい……なんて機能美じゃ……!」
「マモル、これに乗るの? カッコいい!」
「馬車より速そうです~!」
フィリアとエルミナも興味津々だ。
真守はヘルメット(自分用と客用)を取り出し、ニヤリと笑った。
「まぁ言いたい事は後々だ。試運転に行くぞ。……エルミナとデュラスさんはサイドカーに。フィリアは俺の後ろに乗りな」
「え? 私が後ろ?」
「ああ。振り落とされないようにしっかり捕まっててくれよ」
真守が跨り、フィリアが恐る恐る後ろのシートに乗る。
そして、問題のサイドカー部分には――。
「おい兄弟。なぜ私が天使と相席なのだ。狭いぞ」
「文句を言わないでください魔族様! 私の翼が折れちゃうので、もう少し詰めてください!」
大柄なデュラスと、翼のあるエルミナが、サイドカーの中にギュウギュウに詰め込まれた。まるで猛獣と珍獣の檻だ。
「行くぞ!」
真守がキーを回し、セルスターターを押す。
ドロロロロロロ……ッ!
腹に響く重低音が轟き、ガンツが「おおおっ!」と絶頂の声を上げる。
「しっかり捕まってろよ!」
真守がアクセルを回し、クラッチを繋ぐ。
タイヤが砂利を蹴り、鋼鉄の機体が飛び出した。
「きゃあああっ!?」
「ぬおっ!?」
加速のGが彼らを襲う。
フィリアは慌てて真守の背中に抱きついた。
「速い! マモル、速いよ! 風を切ってる!」
「だろ? これがエンジンの力だ!」
バイクは村の街道を疾走し、海沿いの道へと出る。
潮風がヘルメット越しに吹き抜ける。
サイドカーの方では、最初は文句を言っていたデュラスが、風圧でオールバックの髪を乱しながらも、口元を緩めていた。
「フッ……悪くない。生き物の背に乗るのとは違う、この振動……。これが『科学』という力か」
「わぁぁぁぁ! 飛んでるみたいです~! 自分の翼で飛ぶより楽ちんです~!」
エルミナは両手を挙げてはしゃぎ、危うく放り出されそうになってデュラスに襟首を掴まれている。
「マモル……!」
背中のフィリアが、ギュッと腕に力を込めた。
真守の背中の温もりと、流れる景色。
「楽しいね! どこまでも行けちゃいそう!」
彼女の弾んだ声が、排気音に混じって耳元に届く。
真守はアクセルを少しだけ開けた。
「ああ。どこへでも行けるさ。ガソリン(ポイント)がある限りな!」
夕日を背に、砂煙を上げて走る一台のバイク。
その光景は、これから始まる「ダンジョン狂騒曲」の前の、束の間の爽快なひとときだった。
ガンツだけは、走り去るバイクの後ろ姿を見ながら、「ワシもあれを作る! 絶対に作るんじゃ!」と新たな野望に燃えていた。




