EP 16
アルニア村の鍛冶工房。
そこは、真守の家とは対極にある、熱気と鉄の匂い、そして重厚な槌音が響く職人の聖域だった。
「よう、先生。よく来たな」
煤で顔を黒くしたドワーフのガンツ親方が、ニカッと白い歯を見せて笑う。
真守、フィリア、エルミナ、そしてデュラスの四人は、ガンツに招かれて工房の奥へと通された。
「親方、どうしたんだい? 急に呼び出して」
「あぁ。最近、昔の冒険者仲間から珍しい鉱石を譲ってもらってな。どうしても先生に見せたかったんじゃ」
ガンツは作業台の上に置かれた、布に包まれた物体を恭しく開いた。
そこにあったのは、虹色とも無色透明ともつかない、不思議な脈動を続ける拳大の鉱石だった。
「……綺麗な石だな。宝石か?」
「いや、こいつは『精霊鉱』と言ってな。魂を宿す武器になる素材じゃ」
ガンツの言葉に、デュラスが片眉を跳ね上げた。
「魂? 武器が意思を持つと言うのか?」
「あぁ。歴史に名を残す『伝説級』の武器には、大抵これが使われとる。持ち主を選び、共に成長する金属じゃ」
「へぇ~……」
真守は感心して石を覗き込んだ。石の奥で、心臓のように光が明滅しているように見える。
「まぁ良いから、あんたら。この鉱石に力を入れてみてくれ」
「力?」
エルミナがキョトンとして首を傾げる。
「あぁ。精霊鉱は、最初に注がれた力を記憶し、その特性を変えるんじゃ。先生の周りには、とんでもない使い手が揃っとるじゃろう? 闘気、神気、魔力。この三つの異なる力を限界までぶち込めば、面白い物ができると思わんか?」
ガンツの職人としての狂気が宿った瞳がギラリと光る。
「面白い物……伝説の武器か」
「先生には世話になったからな。あんたのくれた設計図のおかげで、ワシの腕は数段上がった。その礼じゃ。それに……」
ガンツはチラリと、真守の後ろに控える規格外の三人(魔族公爵、天使、元S級の娘)を見た。
「これからの生活、先生にはそれ相応の『護身用』が必要になってくるじゃろ? 護身用にしては過ぎた代物になるかもしれんがな」
「……確かに、リザードマンの次はサイクロプスだったしな。次はドラゴンが出てもおかしくない」
真守は苦笑しながら頷いた。
「分かった。やってみよう」
真守の号令で、三人が鉱石を取り囲むように立った。
「分かりました! 私の『闘気』を、マモルのために!」
フィリアが真剣な表情で手をかざす。
彼女の身体から、赤蓮の炎のようなオーラが立ち上る。純粋な恋心と、守りたいという意志が込められた、熱く激しい闘気だ。
「マモル様にはお世話になっていますから……(ご飯代の分も働きます!)。私の『神気』を精霊鉱に!」
エルミナが目を閉じ、祈りを捧げる。
天井から光が降り注いだかのような、眩い黄金の粒子が彼女の掌に集束する。聖騎士としての誇りと、少しの食い意地が混ざった、邪を払う神聖なる光。
「ふん……。まあ、宿代代わりの余興にはなるか。その精霊鉱とやらに、私の『全魔力』を入れてやろう」
デュラスが不敵に笑い、モノクルを光らせる。
彼の足元の影が奔流となり、漆黒の闇が部屋を震わせる。大公爵級の底なしの魔力が、重力のように空間を歪める。
「「「はぁぁぁぁぁっ!!」」」
三色の光――赤、金、黒のエネルギーが、一点の精霊鉱に向かって放たれた。
キィィィィン!!
鉱石が悲鳴のような、あるいは歓喜の産声のような高音を響かせる。
相反するはずの三つの力が、精霊鉱の中で渦を巻き、激しく衝突し、そして融合していく。
「ぬうっ! これは……想定以上じゃ!」
ガンツが熱風に耐えながら叫ぶ。
鉱石はドクン、ドクンと大きく脈打ち、工房内の温度が一気に上昇した。まるで小さな太陽が生まれたかのようだ。
「くっ……負けん! マモルを守る力だもの!」
「天使の威信にかけて……これ以上は入りません~!?」
「生意気な石だ……私の魔力を飲み干すつもりか!」
数分後。
カッと強烈な閃光が走り、全員が思わず目を覆った。
光が収まると、作業台の上には、三色の光沢を帯びて静かに呼吸をするようなインゴット(金属塊)が鎮座していた。
「……すげぇ」
真守が思わず息を漏らす。
ただの金属ではない。圧倒的なプレッシャーを放っている。
ガンツは震える手でそのインゴットを撫でた。
「……できた。闘気の破壊力、神気の浄化力、魔力の干渉力。全てを内包した『カオス・メタル』じゃ」
ガンツはハンマーを握りしめ、獰猛な笑みを浮かべて真守を見た。
「よ~し、後はワシの仕事だ。先生の使い慣れた『三節根』をベースにな……神も魔王も滅ぼせる、究極の武器を作ってやるよ!」
「神も魔王もって……俺はただの教師なんだけどな」
「諦めろ兄弟。貴様の人生はもう、平穏とは無縁だ」
デュラスが疲労した顔で肩を叩く。
炉の炎が燃え上がり、ガンツのハンマーが振り下ろされる。
アルニア村の片隅で、世界のバランスさえ崩しかねない『最強の武器』が、今まさに産声を上げようとしていた。




