EP 14
リザードマン達の猛攻は、時間を追うごとに激しさを増していた。
個々の能力が高い上に、彼らは疲労を恐れない狂戦士のように次々と湧いて出る。
「はぁっ、はぁっ……! 負けません……私は、聖騎士ですからっ!」
エルミナは奮迅していた。
デュラスの『影狼』の援護があるとはいえ、前線で最も攻撃を引き受けているのは彼女だ。輝いていた聖なる鎧には無数の傷がつき、神気の光も明滅し始めている。
「エルミナ、下がれ! それじゃ持たない!」
後方から戦況を俯瞰していた真守が叫んだ。
数学的見地から見ても、彼女のスタミナ残量と敵の波状攻撃のエネルギー量は、明らかに均衡が崩れかけていた。
「で、でも……私が退いたら、バリケードが!」
「俺とボルグで支える! お前は後ろで魔力を回復させろ!」
真守は三節根を構え、ボルグと共に前線へと飛び出した。
「信じろ!」
真守の力強い言葉と、その背中。
エルミナは一瞬だけ逡巡したが、すぐに頷いた。
「は、はい!」
エルミナは翼を羽ばたかせ、後方へと離脱する。
すぐさま膝をつき、祈りを捧げるポーズを取った。
「癒やしの光よ……」
彼女は自身の体に回復魔法を掛け、来るべき反撃の刻に備えて神気を練り直し始めた。
◇
入れ替わりに前線に立った真守とボルグ。
真守は合気道と三節根で敵を翻弄し、ボルグは剛腕で敵を殴り飛ばす。
しかし、その均衡を破る絶望的な「足音」が響いた。
ズシン……ズシン……!!
森の木々をなぎ倒し、リザードマンの軍勢を割って現れたのは、身の丈5メートルを超える一つ目の巨人。
「グオオオオオオオッ!!」
「なっ……!?」
余裕のあったデュラスでさえ、目を見開いた。
「サ、サイクロプスだと!? こんな辺境に何故……!」
「で、でかい……」
屋根の上のフィリアが震える声で呟く。
通常の武器では皮一枚傷つけられない、生ける攻城兵器。
「先生! こいつはヤベェぞ!」
ボルグが斧を構えるが、サイクロプスが手にした丸太のような棍棒を一振りしただけで、数人の自警団員が吹き飛ばされた。
「グガアアッ!」
サイクロプスがバリケードを跨ごうとする。
このままでは村が蹂躙される。
「全く……。私の休暇をここまで邪魔するとはな」
デュラスが忌々しげにタバコを投げ捨てた。
彼はフィリアを見上げ、冷徹な声で指示を飛ばした。
「おい小娘! 私が動きを止める。その隙に奴の眼を狙撃しろ!」
「は、はい!」
「外すなよ? ……我が契約に基づき、地の底より来れ! ロック・ゴーレム!!」
デュラスが地面に手を叩きつけると、大地が隆起した。
岩石と土塊が組み上がり、サイクロプスに匹敵する巨体の『岩の巨人』が姿を現す。
「行け!」
ズガァァァン!!
ロック・ゴーレムがサイクロプスにタックルをかまし、四つの腕で強引に組み付いた。
怪獣映画さながらの激突に大地が揺れる。
しかし、生物としての筋力はサイクロプスの方が上手か、徐々にゴーレムが押し込まれていく。
「チッ、パワー負けするか……!」
その時、巨人の足元に影が走った。
真守だ。
「力任せに押すからだ! 物理法則を忘れるな!」
真守は冷静に、巨人の重心と足の位置を見極めた。
ゴーレムに押され、サイクロプスは踏ん張るために片足に体重を集中させている。
「支点、力点、作用点! ここを崩せば、どんな巨体でも転ぶ!」
真守は三節根『轟天』を最大まで伸ばし、サイクロプスの足首に引っかけた。
そして、自身の全体重と遠心力、さらにボルグの加勢も借りて、一気に引く!
「今だ、倒れろォッ!!」
ガクンッ!
支えを失ったサイクロプスが大きく体勢を崩し、仰向けに倒れ込んだ。
「グオッ!?」
無防備な顔面が空を向く。
その瞬間を見逃すデュラスではない。
「今だ小娘! 撃て!」
「フィリアですっ!!」
フィリアは名前を訂正しながら、長弓をギリギリまで引き絞った。
父から受け継いだ『闘気』を矢に纏わせ、母から教わった『火炎魔法』を圧縮して注ぎ込む。
「闘気よ……纏え……炎よ爆ぜろっ……!」
弓がきしみ、矢の先端が太陽のように赤熱する。
「必殺! フレイム・アロー!!」
ヒュオオオオオッ!!
放たれた矢は炎の竜となって空を翔け、倒れたサイクロプスの唯一の弱点――巨大な一つ眼に突き刺さった。
ドチュンッ!!
「ギャアアアアアアアアアッ!!!」
眼球を蒸発させられ、脳髄を焼かれる激痛に、サイクロプスがのたうち回る。
だが、まだ息がある。暴れる巨体はそれだけで脅威だ。
「トドメだ! エルミナ!」
真守が空を指差して叫んだ。
そこには、魔力を充填し終え、高高度まで舞い上がった聖騎士の姿があった。
「はいっ! マスター!!」
エルミナは聖槍ブリューナクを真下に構えた。
あふれ出る神気が黄金の輝きとなり、彼女自身が一本の巨大な光の杭となる。
「悪しき巨人よ、天罰を受けなさい!」
『ホーリー・ジャッジメント!!』
キィィィィン……ズドォォォォォォン!!!
光の流星となったエルミナが、サイクロプスの心臓めがけて急降下した。
黄金の衝撃波が広がり、地面がクレーターのように陥没する。
サイクロプスの断末魔は光の中に消え、その巨体は瞬く間に塵となって浄化された。
◇
砂煙が晴れると、そこにはクレーターの中心でポーズを決める(少し息切れした)エルミナと、消滅した巨人の跡だけが残っていた。
主戦力を失ったリザードマンたちは、恐怖にかられて森の奥へと敗走していく。
一瞬の静寂。
そして――。
「う、うおおおおおおおおっ!!」
「勝ったぞ! 俺たちの村を守ったんだ!」
自警団と、避難していた村人たちから割れんばかりの歓声が上がった。
「ふぅ……。なんとか、家のローンは守られたか」
真守は額の汗を拭い、泥だらけになった作業着をパンパンと払った。
その横で、デュラスがやれやれと肩をすくめる。
「悪くない連携だったな、兄弟。……だが、あのロック・ゴーレムの修理費は高くつくぞ?」
「ゴルド商会に請求してくれ。……フィリア、エルミナ、怪我はないか?」
真守が声をかけると、フィリアとエルミナが満面の笑みで駆け寄ってきた。
「マモル! 私、やったよ!」
「マスター! 私の勇姿、見ていただけましたか!?」
種族も立場も違う四人が、夕焼けの中で並び立つ。
その光景は、アルニア村の新たな伝説として、長く語り継がれることになるのだった。




