表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/130

EP 14

リザードマン達の猛攻は、時間を追うごとに激しさを増していた。

個々の能力が高い上に、彼らは疲労を恐れない狂戦士のように次々と湧いて出る。

「はぁっ、はぁっ……! 負けません……私は、聖騎士ですからっ!」

エルミナは奮迅していた。

デュラスの『影狼』の援護があるとはいえ、前線で最も攻撃を引き受けているのは彼女だ。輝いていた聖なる鎧には無数の傷がつき、神気の光も明滅し始めている。

「エルミナ、下がれ! それじゃ持たない!」

後方から戦況を俯瞰していた真守が叫んだ。

数学的見地から見ても、彼女のスタミナ残量と敵の波状攻撃のエネルギー量は、明らかに均衡が崩れかけていた。

「で、でも……私が退いたら、バリケードが!」

「俺とボルグで支える! お前は後ろで魔力を回復させろ!」

真守は三節根を構え、ボルグと共に前線へと飛び出した。

「信じろ!」

真守の力強い言葉と、その背中。

エルミナは一瞬だけ逡巡したが、すぐに頷いた。

「は、はい!」

エルミナは翼を羽ばたかせ、後方へと離脱する。

すぐさま膝をつき、祈りを捧げるポーズを取った。

「癒やしの光よ……」

彼女は自身の体に回復魔法ヒールを掛け、来るべき反撃の刻に備えて神気を練り直し始めた。

   ◇

入れ替わりに前線に立った真守とボルグ。

真守は合気道と三節根で敵を翻弄し、ボルグは剛腕で敵を殴り飛ばす。

しかし、その均衡を破る絶望的な「足音」が響いた。

ズシン……ズシン……!!

森の木々をなぎ倒し、リザードマンの軍勢を割って現れたのは、身の丈5メートルを超える一つ目の巨人。

「グオオオオオオオッ!!」

「なっ……!?」

余裕のあったデュラスでさえ、目を見開いた。

「サ、サイクロプスだと!? こんな辺境に何故……!」

「で、でかい……」

屋根の上のフィリアが震える声で呟く。

通常の武器では皮一枚傷つけられない、生ける攻城兵器。

「先生! こいつはヤベェぞ!」

ボルグが斧を構えるが、サイクロプスが手にした丸太のような棍棒を一振りしただけで、数人の自警団員が吹き飛ばされた。

「グガアアッ!」

サイクロプスがバリケードを跨ごうとする。

このままでは村が蹂躙される。

「全く……。私の休暇をここまで邪魔するとはな」

デュラスが忌々しげにタバコを投げ捨てた。

彼はフィリアを見上げ、冷徹な声で指示を飛ばした。

「おい小娘! 私が動きを止める。その隙に奴の眼を狙撃しろ!」

「は、はい!」

「外すなよ? ……我が契約に基づき、地の底より来れ! ロック・ゴーレム!!」

デュラスが地面に手を叩きつけると、大地が隆起した。

岩石と土塊が組み上がり、サイクロプスに匹敵する巨体の『岩の巨人』が姿を現す。

「行け!」

ズガァァァン!!

ロック・ゴーレムがサイクロプスにタックルをかまし、四つの腕で強引に組み付いた。

怪獣映画さながらの激突に大地が揺れる。

しかし、生物としての筋力はサイクロプスの方が上手か、徐々にゴーレムが押し込まれていく。

「チッ、パワー負けするか……!」

その時、巨人の足元に影が走った。

真守だ。

「力任せに押すからだ! 物理法則を忘れるな!」

真守は冷静に、巨人の重心と足の位置を見極めた。

ゴーレムに押され、サイクロプスは踏ん張るために片足に体重を集中させている。

「支点、力点、作用点! ここを崩せば、どんな巨体でも転ぶ!」

真守は三節根『轟天』を最大まで伸ばし、サイクロプスの足首に引っかけた。

そして、自身の全体重と遠心力、さらにボルグの加勢も借りて、一気に引く!

「今だ、倒れろォッ!!」

ガクンッ!

支えを失ったサイクロプスが大きく体勢を崩し、仰向けに倒れ込んだ。

「グオッ!?」

無防備な顔面が空を向く。

その瞬間を見逃すデュラスではない。

「今だ小娘! 撃て!」

「フィリアですっ!!」

フィリアは名前を訂正しながら、長弓をギリギリまで引き絞った。

父から受け継いだ『闘気』を矢に纏わせ、母から教わった『火炎魔法』を圧縮して注ぎ込む。

「闘気よ……纏え……炎よ爆ぜろっ……!」

弓がきしみ、矢の先端が太陽のように赤熱する。

「必殺! フレイム・アロー!!」

ヒュオオオオオッ!!

放たれた矢は炎の竜となって空を翔け、倒れたサイクロプスの唯一の弱点――巨大な一つ眼に突き刺さった。

ドチュンッ!!

「ギャアアアアアアアアアッ!!!」

眼球を蒸発させられ、脳髄を焼かれる激痛に、サイクロプスがのたうち回る。

だが、まだ息がある。暴れる巨体はそれだけで脅威だ。

「トドメだ! エルミナ!」

真守が空を指差して叫んだ。

そこには、魔力を充填し終え、高高度まで舞い上がった聖騎士の姿があった。

「はいっ! マスター!!」

エルミナは聖槍ブリューナクを真下に構えた。

あふれ出る神気が黄金の輝きとなり、彼女自身が一本の巨大な光の杭となる。

「悪しき巨人よ、天罰を受けなさい!」

『ホーリー・ジャッジメント!!』

キィィィィン……ズドォォォォォォン!!!

光の流星となったエルミナが、サイクロプスの心臓めがけて急降下した。

黄金の衝撃波が広がり、地面がクレーターのように陥没する。

サイクロプスの断末魔は光の中に消え、その巨体は瞬く間に塵となって浄化された。

   ◇

砂煙が晴れると、そこにはクレーターの中心でポーズを決める(少し息切れした)エルミナと、消滅した巨人の跡だけが残っていた。

主戦力を失ったリザードマンたちは、恐怖にかられて森の奥へと敗走していく。

一瞬の静寂。

そして――。

「う、うおおおおおおおおっ!!」

「勝ったぞ! 俺たちの村を守ったんだ!」

自警団と、避難していた村人たちから割れんばかりの歓声が上がった。

「ふぅ……。なんとか、家のローンは守られたか」

真守は額の汗を拭い、泥だらけになった作業着をパンパンと払った。

その横で、デュラスがやれやれと肩をすくめる。

「悪くない連携だったな、兄弟。……だが、あのロック・ゴーレムの修理費は高くつくぞ?」

「ゴルド商会に請求してくれ。……フィリア、エルミナ、怪我はないか?」

真守が声をかけると、フィリアとエルミナが満面の笑みで駆け寄ってきた。

「マモル! 私、やったよ!」

「マスター! 私の勇姿、見ていただけましたか!?」

種族も立場も違う四人が、夕焼けの中で並び立つ。

その光景は、アルニア村の新たな伝説として、長く語り継がれることになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ