EP 13
アルニア村の入り口、木製のバリケード付近は修羅場と化していた。
「ガアアアッ!」
「おらぁっ! 押せ押せ! 村に入れるな!」
屈強なリザードマンの戦士たちが、手にした曲刀や槍でバリケードを打ち叩く。自警団の面々は盾を構えて必死に耐えているが、リザードマンの膂力は凄まじく、少しずつ防衛線が押し込まれ始めていた。
そこへ、真守たちが駆けつける。
「先生!」
最前線で大斧を振るっていたボルグが、真守の姿を見て叫んだ。彼の体にはすでに数箇所の切り傷があり、肩で息をしている。
「ボルグ、状況は!?」
「ハァ、ハァ……! 見ての通りだ、最悪だぜ! まだ第一陣も終わってねぇ! こいつら、鱗が硬すぎて普通の刃が通りにくくてな!」
その言葉を裏付けるように、バリケードを乗り越えたリザードマンの一体が、大きく跳躍して真守に襲いかかった。
「シァアアアッ!」
振り下ろされる錆びついた鉄剣。
だが、真守の視界には、その軌道がスローモーションのように映っていた。
(質量はおよそ80キロ。落下速度と腕力を加算した衝撃力は……正面から受ける必要はない)
真守は半歩、右へスライドする。
鉄剣が真守の作業着を掠め、地面を叩く。
「失礼」
真守の手の中で、ドワーフの傑作『轟天(三節根)』が唸りを上げた。
ヒュンッ!
彼が手首を返すと、三節根の一端が生き物のようにしなり、リザードマンの死角である膝の裏側を強打する。
「ギャッ!?」
鱗の薄い関節を砕かれたリザードマンが体勢を崩す。
真守は追撃の手を緩めない。回転させたもう一端を、今度は遠心力を乗せて相手の延髄へ叩き込んだ。
ゴガッ!
硬い音が響き、リザードマンが白目を剥いて崩れ落ちる。
「す、すげぇ……あの硬いトカゲを打撃だけで……」
自警団たちが息を飲む中、後方からは鋭い風切り音が連続して響いた。
ヒュン、ヒュン、ドスッ!
「グギャッ!」
別のリザードマンの目玉と喉元に、正確無比な矢が突き刺さる。
屋根の上に陣取ったフィリアだ。
「マモル、背中は私が守るから! どんどん行って!」
「ああ、助かる!」
真守とフィリアの連携が前線を押し戻し始める。
だが、リザードマンの数は多い。密集した敵の集団が、怒涛の勢いで雪崩れ込んできた。
「数で押し潰せ! 人間ごときが!」
リザードマンの隊長格が叫ぶ。
その時だった。
「光あれ! そして悔い改めなさい!」
ドォォォォォン!!
白い閃光と共に、武装したリザードマンの集団がまとめて吹き飛ばされた。
土煙の中から現れたのは、白銀の鎧と翼を輝かせたエルミナだった。
「聖騎士エルミナ、推して参ります!」
彼女は聖槍『ブリューナク』を構え、敵のど真ん中へ単身突撃した。
「なんだこの女は!? 殺せ!」
十数体のリザードマンが一斉にエルミナに斬りかかる。
しかし、彼女の体は眩い『神気』に包まれていた。
ガキン! キンッ! バギィッ!
リザードマンたちの剣は、エルミナの肌(を覆う神気)に触れた瞬間、逆に刃こぼれを起こして弾かれた。
「痛くありません! 私の守りは鉄壁です!」
「バ、バカな!? 斬れないだと!?」
エルミナは無傷のまま槍を振り回す。
その一撃一撃は重戦車のように敵を薙ぎ払うが、あまりにも大雑把すぎた。
「ええい、どきなさいどきなさい! ……ああっ、後ろからも!?」
敵陣深くに突っ込みすぎたため、彼女は完全に包囲されていた。いくら防御が高くても、四方八方からタコ殴りにされれば身動きが取れなくなる。
「きゃあ! 尻尾で叩かないでください! 聖なる鎧が汚れます!」
その様子を後方から見ていたデュラスが、呆れ果てたように舌打ちをした。
「チッ……。あのポンコツ天使、一人で突っ走りすぎだ。タンク役が孤立してどうする」
デュラスは紫煙を吐き出し、コートの裾を翻した。
「仕方がない。私の『小遣い(へそくり)』が減るのは癪だが、ここで天使に死なれても寝覚めが悪い」
彼が指を鳴らすと、地面に落ちた彼自身の影が沸騰したように泡立ち、漆黒の獣の形を成した。
「行け、『影狼』」
グルルルッ……!
影から生まれた三頭の巨大な狼が、弾丸のように戦場を駆け抜けた。
「な、なんだこの黒い犬は!?」
リザードマンが気づいた時には遅い。
物理攻撃を無効化する影の狼たちは、エルミナに群がるリザードマンの背後に忍び寄り、その鋭い牙で喉笛を食い千切った。
「ギャアアアッ!?」
「影が……喰らいついた!?」
次々と絶命するリザードマンたち。
影狼たちはエルミナの周囲を旋回し、死角からの攻撃をすべて排除していく。
「ふぇ? ……助かった?」
エルミナがキョトンとしていると、後方からデュラスの声が響いた。
「おい天使! 棒立ちしている暇があったら槍を振れ! その狼たちは私の魔力を食うんだ、さっさと片付けんか!」
「は、はいぃぃ! ……って、魔族の召喚獣!? こ、怖いですぅ~!」
「怖いならさっさと終わらせろ!」
「ううぅ、ありがとうございますぅ! ……スターライト・ブレイク・ランス!!」
影狼に守られたエルミナは、ようやく体勢を立て直し、極太の光線を放って敵の増援を消し飛ばした。
「……やれやれ。手のかかる」
デュラスは額の汗を拭うふりをしながら、満足げに口元を緩めた。
戦況は、この奇妙な混成部隊の圧倒的優位に傾きつつあった。




