EP 12
平和な昼下がり。
真守のリビングで繰り広げられていた、種族を超えた奇妙な宴会――魔族公爵による「ビール一気飲み」と、天使による「ポテチ一気食い」の競演は、唐突に鳴り響いた警鐘によって中断された。
カンカンカンカンカンッ!!
村の中央にある火の見櫓から、けたたましい早鐘の音が響き渡る。
「……敵襲か?」
真守が赤マルを揉み消し、立ち上がる。
デュラスは眉をひそめ、飲み干したグラスをテーブルに置いた。
「チッ……。せっかくの酔いが冷めるではないか」
村の広場は、逃げ惑う村人と、武装して走る自警団で騒然としていた。
「報告! 西の森からリザードマンの部隊です! 数はおよそ50!」
「なんだと!? ゴブリンではなくリザードマンだと!?」
報告を受けたラミアスの顔色がサッと変わる。
リザードマンは知能が高く、武器や防具を装備し、連携を取って戦う「軍隊」だ。農具を持っただけの村人では太刀打ちできない。
「バリケードを閉めろ! 女子供は教会へ避難! ボルグ、第一班を連れて迎撃だ!」
ラミアスが矢継ぎ早に指示を飛ばすが、相手の数が多い。村の守備力だけでは被害が出るのは必至だった。
そこへ、真守たちが駆けつける。
「村長! 状況は!?」
「おお、マモル殿! リザードマンの群れだ! 統率が取れている、厄介だぞ!」
真守が森の方角を見ると、確かに金属の鎧が擦れる音と、独特の「シュシュシュ」という爬虫類の呼吸音が近づいてきていた。
「……おいおい、50匹かよ。俺の家のローン(村の平和)を脅かす奴は許さんぞ」
真守が懐から愛用の三節根『轟天』を取り出し、カシャンと展開する。
その横で、デュラスが不機嫌そうに煙草に火をつけた。
「チッ……。私が来ていると言うのに襲撃だと? この大陸でワイズ皇国の公爵に喧嘩を売るとは、爬虫類風情がふざけているな」
デュラスの全身から、ドス黒い魔力がゆらりと立ち上る。
その殺気に、近くにいた自警団員たちが「ひっ」と悲鳴を上げた。
「お、おい天使族! いつまで私の後ろで震えている!」
デュラスが背後に隠れていたエルミナの襟首を掴んで引きずり出した。
「ひぇ~! で、でも相手はリザードマンですよぉ! 鱗が硬いし、集団戦法が怖いんですぅ!」
「貴様、それでも聖騎士か! 恥を知れ恥を! さっさとそのふざけた格好を着替えんか!」
デュラスに尻を蹴飛ばされ、エルミナが涙目で前につんのめる。
しかし、彼女はバッと顔を上げると、覚悟を決めた(やけくそ気味な)表情になった。
「うぅぅ……分かりましたよぉ! やればいいんでしょ、やれば! 震えてる場合じゃありません!」
エルミナは懐から、ハート型の装飾が施された魔導コンパクトを高々と掲げた。
「光よ! 正義よ! 乙女の祈りよ! 私に力を!」
『ホーリー・メイクアップ!!』
その瞬間。
戦場のド真ん中であるにも関わらず、どこからともなく荘厳かつポップな聖歌(BGM)が流れ始めた。
『♪~~(チャラララーン)』
七色の光の帯がエルミナを包み込み、着ていたワンピースが光の粒子となって弾け飛ぶ。
宙に浮いた彼女の周りを、リボン状のエネルギーが螺旋を描き、一瞬だけ全裸(光で見えない)になった後、手足に白銀のガントレット、胴体に聖なる鎧、そして背中に巨大な純白の翼が装着されていく。
クルクルと優雅に回転し、最後にバサァッ! と翼を広げ、コンパクトを空に投げてキャッチ。
「愛と正義の使徒、聖騎士エルミナ! 天に代わって成敗します!」
ビシィッ!!
決めポーズと共に、背後で謎の爆発エフェクトが炸裂した。
所要時間、たっぷり45秒。
戦場に一瞬の沈黙が落ちた。
迫りくるリザードマンたちさえも、あまりの演出に足を止めて呆然と見ていた。
「……無駄に長い変身だな」
真守がボソッと呟く。
「敵が待ってくれて良かったな。実戦なら3回は死んでるぞ」
「うるさいですっ! これは儀式なんです!」
エルミナが顔を真っ赤にして反論する。
だが、その装備は本物だ。手には聖槍、左腕には盾。さきほどのポンコツぶりは消え、神々しいオーラを放っている。
「行くわよ、マモル、エルミナちゃん!」
フィリアが身の丈ほどの長弓を引き絞り、鋭い眼光で敵を見据えた。
「私達の村は、私達が守るんだから!」
「ああ。稼がせてもらおうか。……デュラスさんは?」
「私は高みの見物といきたいところだが……」
デュラスは面倒くさそうに溜息をつき、指をパチンと鳴らした。
彼の足元の影が、ズルリと広がり、無数の黒い棘へと形を変える。
「ビールを不味くされた落とし前はつけさせてもらう。……さあ、殺戮の時間だ」
元数学教師、弓使いの村娘、変身魔法少女(天使)、そしてドSの魔族公爵。
アルニア村始まって以来の、最強かつカオスな防衛戦が幕を開けた。




