EP 49
『勘違いの侍女扱いと、始祖竜の体験入学』
アルニア公爵邸の玄関。
マモルは、靴を履きながら背後に漂うドス黒いオーラに怯えていた。
「じゃ、じゃあ今日は俺は授業が有るから……行ってくるね」
マモルは逃げるようにドアノブに手をかけた。
背後では、フィリアとエルミナが腕を組み、仁王立ちしている。
「行ってらっしゃいませ、マモル。……後は私達にお任せを」
フィリアがニコリともせずに言う。
「ええ。私とフィリアさんと、ヴァルキュリア様は、これから『女の話し合い』が有るので♡」
「話し合い?」
エルミナが般若のような笑顔で補足した。
「そうですぅ。きちんと、この街の事とかぁ、『誰がマモル様にふさわしいのか』ぁ……た~っぷりと、膝を突き合わせてお話し合いですぅ」
明らかに「尋問」か「排除勧告」の予告だった。
しかし、空気を読まない(読めない)ヴァルキュリアは、ポンと手を叩いた。
「何? 街を案内してくれるのか? それは助かる」
ヴァルキュリアは二人を見下ろし、鷹揚に頷いた。
「流石はマモル様の元部下とパートナーだ。私とマモル様の仲を取り持つ『小間使い』として、案内を頼むぞ。まずは美味しい甘味処へ連れて行け」
ブチッ。
フィリアとエルミナの血管が切れる音が聞こえた。
「違うだろぉぉぉぉぉッ!!!」
「誰が小間使いですか誰が!!」
「キャーッ! マモル様行ってらっしゃーい!」
背後で始まった怒号と魔法の炸裂音を聞きながら、マモルは冷や汗をかいて家を飛び出した。
「(……強く生きてくれ、ヴァルキュリア)」
***
通学路。
マモルは肩の荷を下ろして歩いていた。
「はぁ……家が戦場すぎる。学校だけが俺の安息の地だ……」
その時。
クイッ、クイッ。
誰かに袖を引っ張られた。
「ん?」
マモルが見下ろすと、そこにはランドセル(マモルマート製)を勝手に背負った、始祖竜アルカがいた。
「……アルカ? どうした? 家でお留守番じゃないのか?」
「アルカも学校に行きたい~」
アルカはマモルの脚にまとわりつき、上目遣いで訴えた。
「え!? アルカも学校に!?」
「うん! あの家にいると、お姉ちゃんたちが怖い顔してるし……アルカ、マモルと一緒が良い~!」
どうやら、家の殺伐とした空気に耐えきれず(あるいはマモルと離れるのが嫌で)ついて来てしまったらしい。
マモルは考えた。
(……確かに、あの修羅場にアルカを置いておくのは教育上良くない。それに、目を離した隙にまた島を消し飛ばされたら困るしな)
「……分かった。連れて行ってやる」
「わぁい!」
「ただし! 絶対にブレスを吐いたり、正体を現したりしないこと! お利口さんにしてるんだぞ?」
「分かった~! アルカ、いい子にする!」
***
アルニア公立学校。
ここはマモルが設立した、種族を問わず学べる教育機関だ。マモルは時折、特別講師として教壇に立っている。
「起立、礼」
「おはようございます、マモル先生!」
人間の子供、獣人の子供、エルフの子供たちが元気に挨拶する。
マモルは教卓に立ち、少し緊張しながら切り出した。
「え~、今日は皆に、新しいお友達を紹介する。……アルカ、入って来なさい」
ガララッ。
教室の扉が開き、トテトテとアルカが入ってきた。
その愛くるしい姿に、教室がざわめく。
「は~い!」
アルカは教壇の前に立ち、チョークを握ると、黒板に拙い文字で『あるか』と書いた。そして、満面の笑みでクラスを見渡した。
「アルカだよ! マモル……じゃなくて、先生のことが大好きです!」
「おお~っ!」
「可愛い~!」
生徒たちが歓声を上げる。
アルカは胸を張り、とんでもないことを言い足した。
「趣味は、『お昼寝』と『島消し』です! 優しくしてね♡」
「しまけし?」
「消しゴムのことかな?」
子供たちは無邪気に解釈してくれたが、マモルだけが脂汗を流していた。
(……頼むから、校舎だけは消さないでくれよ、始祖竜様……)
こうして、世界最強の転校生を迎えた、ハラハラの授業が始まるのだった。




