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EP 45

『始祖竜のお茶出しと、天界族長の陥落』

「どうぞ、入ってください。散らかってますけど」

マモルは自宅(マイホームスキルで建てた現代風一軒家)の鍵を開け、ヴァルキュリアを招き入れた。

「お邪魔致します……」

ヴァルキュリアは緊張した面持ちで玄関をくぐった。

しかし、リビングに入った瞬間、彼女の目は驚きに見開かれた。

「まぁぁ……! 何と素敵な部屋なんでしょう!」

清潔なフローリング、ふかふかのソファー、そして見たこともない家電製品(とゲーム機)の数々。天界の荘厳な神殿とは違う、機能美と温かみに満ちた空間。

「マモル様は、このような洗練された城にお住まいなのですね……」

「いやいや、ただの家ですよ。……ゆっくりしていって下さい。今、お土産(在庫のボディソープ)を用意するんで」

マモルが倉庫へ向かおうとした、その時だった。

「マモル~! お帰り~!」

ドタドタドタッ!

二階から元気な足音が響き、小さな影が飛び出してきた。

始祖竜アルカだ。彼女は弾丸のようにマモルの腹へ飛び込んだ。

「ぐふっ! ……あぁ、ただいまアルカ」

マモルは慣れた手つきでアルカを受け止め、頭を撫でた。

「えへへ~、マモルいい匂いする~(お酒と唐揚げの匂い)」

「こらこら、匂いを嗅ぐな。……アルカ、お客様だ。お茶を出しなさい」

マモルは極めて自然に言った。教育の一環として、子供にお手伝いをさせる父親の口調だ。

「うん、分かった~! 麦茶でいい?」

「ああ、頼むな」

アルカはパタパタとキッチンへ走っていった。

微笑ましい親子の光景。……だが、それを目撃したヴァルキュリアにとっては、天地がひっくり返るような衝撃映像だった。

「え……えぇぇッ!? し、始祖竜のアルカ様ッ!?」

ヴァルキュリアは腰を抜かしそうになった。

あの少女は、先日島を消し飛ばした、世界最強の竜神ではないか。天界ですら敬意を払う「絶対強者」だ。

「そ、そのアルカ様を……顎で使い、あろうことか私にお茶を出して下さるのですか!?」

「え? そんな大袈裟な」

マモルはキョトンとして手を振った。

「お茶を出すだけですよ。誰でも出来る事です。子供のしつけみたいなもんですよ」

「誰でも出来る……!?」

ヴァルキュリアは戦慄した。

(始祖竜を使役し、それを「誰でも出来る雑用」と言い切る……。この御方は、一体どれほどの高みにいるというのですか!?)

彼女の中で、マモルの評価が「魔王を倒した勇者」から「神々すら超越し、日常の一部として従える絶対支配者」へとランクアップした。

「はい、お茶~」

「あ、ありがとうございます……! 勿体なき幸せ……!」

アルカからコップを受け取るヴァルキュリアの手は、プルプルと震えていた。

「マモル様……! 貴方に勇者、魔王、公爵……いかなる言葉で表しても、その器を表現する事は出来ませんわ!」

ヴァルキュリアは感動で潤んだ瞳をマモルに向けた。

武術への深い造詣。食への知識。慈愛の心(ソープ配布)。そして、神をも従える王者の風格。

「えぇ~? 俺はただの人間ですよ?」

マモルが苦笑いする。

「その謙虚さ……! こ、このような御方と、私はお近づきになれたのですね。何と幸せな事か……」

ヴァルキュリアは決意した。

この方を逃してはならない。天界の未来のため、そして何より、自分の女としての幸せのために。

「え?」

マモルが首を傾げる前で、ヴァルキュリアはその場に膝をつき、最敬礼をした。

「マモル様。不肖このヴァルキュリア……謹んで、マモル様の奥方(第三夫人あたり)を勤めさせて頂きます」

「えぇッ!?」

マモルが素っ頓狂な声を上げた瞬間。

ドォォォォォォンッ!!!

二階から、雷が落ちたような音が響いた。

そして、階段の上から、鬼の形相をした二人の女性が駆け下りてきた。

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ~~~ッ!!!!」

先回りして帰宅し、マモルの動向を監視(聞き耳)していたエルミナとフィリアである。

「ぬけがけは許しませんわよ! 元上司!」

エルミナが杖を構える。

「そうよ! マモルは渡さないんだから! ていうかボディソープ貰いに来ただけじゃないの!?」

フィリアがフライパン(武器)を構える。

「えっ、エルミナ!? フィリア!? なんで二階に!?」

「マモル様! 今はそれどころではありません! この泥棒猫を追い出しますわよ!」

リビングは一瞬にして戦場と化した。

事情が飲み込めないアルカだけが、麦茶を飲みながら首を傾げていた。

「……マモル、モテモテだねぇ」

マモルの平穏な夜は、こうして三人の美女(と一柱の竜)による修羅場へと沈んでいくのだった。

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