EP 44
『天然のお持ち帰り宣言と、解散の号令』
若さマウントを取られ、肩を落とすヴァルキュリア。
その姿を見たマモルの中に、持ち前の(そして時に致命的な)お節介心が芽生えた。
「……あの、良かったら」
マモルは身を乗り出し、優しく提案した。
「ヴァルキュリアさんも使ってみますか? その、俺が開発した『若返りのボディソープ』と『保湿クリーム』」
「……えっ?」
ヴァルキュリアが顔を上げる。
「まぁ……興味が有りますわ。天界にはない未知の美容法……。マモル様は、敵であった私にもお優しいのですね」
「いえいえ、いい物は共有すべきですから」
ここまでは良かった。
だが、マモルは次の瞬間、在庫がどこにあるかを思い出し、何気なく口にしてしまった。
「手持ちがないので、では俺の家に来ませんか? すぐにお渡ししますよ」
時が止まった。
店内のBGMすら消えた気がした。
「まぁ……!」
ヴァルキュリアは頬を染め(美容への期待で)、嬉しそうに手を合わせた。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
しかし、周囲の反応は違った。
エルミナとフィリアの肩が、カタカタと震えだしたのだ。
それは悲しみではない。テーブルの上のグラスが共振して音を立てるほどの、物理的な「激怒」の振動だった。
(……おいおい、マモル)
デュラスはワイングラスを置き、冷静に心の中でツッコミを入れた。
(合コンで「家に来ないか?」だと? それは文脈上、「お持ち帰り」の隠語だろう。貴様、天然で口説いたのか?)
サルバロスも、マモルの自爆を見て口角を吊り上げた。
(ククク……! 見ろ、あの女達の顔を。修羅場を超えて、殺意の波動に目覚めているぞ。これは愉快な地獄絵図だ!)
「え? ……え?」
マモルはようやく異変に気づいた。
フィリアの背後から黒い触手が、エルミナの背後から氷の槍が見える気がする。
「あ、いや、違うんだ! ただ在庫が家の倉庫に……!」
言い訳をしようとした瞬間、サルバロスがパン!と手を叩いた。
「さ~て!!」
元魔王が、この世で一番楽しそうな声で宣言した。
「カップルも成立した(誤解)ことだし、決着もついたな! これにて合コンは終了! 解散ッ!!」
「ええっ!?」
「行くぞデュラス! 我々は野暮用を思い出した!」
「承知しました。お会計は幹事のマモル殿持ちで」
男性陣二人は、素早く席を立ち、風のように店を出ていった。
残されたのは、マモルと三人の女性だけ。
ガタッ。
フィリアとエルミナが立ち上がった。
「ふんッ!!」
二人は同時に鼻を鳴らし、蔑みの視線をマモルに投げつけた。
「この……浮気者ッ!!」
「スケコマシッ!!」
「ち、違う! 待ってくれ!」
「知らない! ヴァルキュリア様と仲良く『保湿』し合えばいいじゃない!」
「サヨナラ!」
バタンッ!!
二人はマモルを置いて、怒りの足音と共に店を出ていってしまった。
「あぁ……」
呆然とするマモル。
広いテーブルには、食べかけの生ハムと、マモル、そしてヴァルキュリアだけが残された。
「……あの、マモル様?」
ヴァルキュリアが、おずおずとマモルに近寄ってきた。
甘い香りが鼻をくすぐる。彼女はマモルの袖を掴み、上目遣いで尋ねた。
「皆様、帰られてしまいましたね……。でも、お約束は有効ですよね?」
彼女は純粋に「化粧品」が欲しいだけだ。
だが、今の状況はどう見ても「愛人契約成立」の図だった。
「マモル様のお家は、何処でしょう? ……案内して、くださいますか?」
至近距離で見つめられる、絶世の美女(元上司)。
マモルは冷や汗を流しながら、ようやく事の重大さを理解した。
(あれ? 俺……やっちゃいました?)
誰もいない店内で、マモルの心の叫びだけが虚しく響くのだった。




