EP 43
『聖なる葉と枝豆、そして若さという名の暴力』
「よ~し! トークも盛り上がってきたな(地獄だが)! 次のワードだ!」
サルバロスは空気を読まず、次のお題カードをめくった。
「『菜園』!」
スッ。
マモルと、ヴァルキュリア。そして、不穏な笑みを浮かべたフィリアの手が挙がった。
(じ、地獄じゃないかよ……。またこのメンバーか……)
マモルは天を仰いだ。
「ほう、ヴァルキュリアもやるのか?」
サルバロスが振ると、ヴァルキュリアは背筋を伸ばして答えた。
「ええ。私は趣味で**『天上の聖葉』**と言う植物を育ててまして。成長すると赤い実がなり、いかなる傷や病も治せますの」
「す、凄い植物ですね……! 流石は天界」
「はい。これを煎じて薄めて、人間の方々に配るのも私の趣味ですの。慈愛の精神ですわ」
ヴァルキュリアが聖母のような微笑みを浮かべる。完璧だ。完璧すぎて眩しい。
マモルは自分の庶民的な菜園事情を話すのが恥ずかしくなった。
「素敵だ……。俺なんて、庭に**『枝豆』**を植えて、夏のビールのツマミにする事しか考えて無くて……」
「えだまめ……?」
ヴァルキュリアがキョトンとする。
「まぁ! ホホホ! 枝豆なんて初めて聞きましたわ。可愛い響きですこと」
「あ、良かったら今度、苗をお裾分けしますよ。育てやすいですし」
「まぁ、マモル様ったら優しいのですね! ではお礼に、私の天上の聖葉もマモル様に……」
二人の距離が再び縮まりかけた、その時。
「はいはい!」
フィリアが割り込んだ。
「私もハーブ育ててます~! 植物のことなら任せてください! 私がヴァルキュリア様の天上の聖葉を、マモルの代わりに育てますっ!」
フィリアは「マモルと貴女の交換日記(苗のやり取り)はさせない」という鉄の意志を目に宿していた。
「まぁ、そうなのですか? フィリアさんが?」
ヴァルキュリアは善意と受け取ったが、マモルは冷や汗を拭った。
(ヤバい、ヤバい……。フィリアの『私がやる』は『お前は手を出すな』の隠語だ……)
その攻防を眺めながら、デュラスは優雅にグラスを揺らした。
(あぁ……他人の修羅場で飲む酒が、こんなに旨いとは)
***
ここで、沈黙を守っていたエルミナが動いた。
彼女は艶やかに髪をかき上げ、とろんとした目でマモルを見た。
「そういえば~、この前マモルさんと新作ゲームしてたら~、熱中しすぎて『徹夜』しちゃって~、そのまま朝を迎えて遊んだんですよね~♡」
エルミナがいきなりの爆弾投下。
「朝まで一緒だった(ゲームだけど)」という既成事実の強調だ。
「えっ? あ、ああ。楽しかったな、あれは」
マモルは素直に答える。
「そ~そ~! 楽しかったわ~! 修学旅行みたいで!」
フィリアも即座に同調し、矛先をヴァルキュリアに向けた。
「ヴァルキュリア様は、『徹夜』とか出来ます~? やっぱりお肌に悪いから無理ですかぁ~?」
「……ッ!?」
ヴァルキュリアの眉がピクリと動いた。
「年齢的にキツイでしょ?」という遠回しな挑発。
「……不健康な。私は規律正しい生活を心がけておりますので」
「え~! そんな~! 私達~『若い』から~、徹夜とかへっちゃらですわ!」
エルミナが悪魔的な笑顔で「若い」を強調する。
ヴァルキュリアのこめかみに青筋が浮かんだ。
「くっ……。わ、私は『永遠の17歳』ですのよ? 徹夜など造作もありませんわ!」
そこへ、何も考えていないサルバロスがガソリンを注いだ。
「お~、確かにエルミナやフィリアは肌が綺麗だな~。ツヤッツヤじゃないか」
「あ、分かります~? 元魔王様♡」
エルミナが得意げに自分の腕を撫でる。
「毎日、マモルマートで買った『専用のボディソープ』と『高級保湿クリーム』を塗っていますから! 天界の石鹸とは潤いが違いますのよ」
「そうそう! でも何よりも~、やっぱり素材が『若い』からかな~♡」
フィリアとエルミナがハイタッチをする。
ヴァルキュリアは小刻みに震え始めた。
「ボ? ボディソープ? 保湿クリーム? ……(何なのその知らない単語は!? それにさっきから若い若いって何なのよ! 私は設定上17歳なんだもん! 実年齢の話は禁止カードでしょうが!)」
未知の美容用語と、圧倒的な「若さアピール」の暴力。
族長ヴァルキュリア、精神的ダメージにより撃墜寸前であった。




