表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/123

EP 10

森の罠で捕獲した「自称・聖騎士」の天使、エルミナを連れて、真守とフィリアは丘の上の自宅へと戻ってきた。

「あ、あのぅ……マモル様? フィリア様? 本当にここに住んでいるのですか? どう見ても、悪霊の巣窟というか、呪われた廃屋にしか見えないのですが……」

エルミナは、苔と蔦に覆われ、窓が板で打ち付けられた(ように見える)ボロ家を見上げ、羽を震わせている。

「ふふ~ん。エルミナちゃん、人は見かけによらないし、家も外見によらないんだよ」

フィリアは先輩風を吹かせ、得意げに鼻を鳴らした。

真守は苦笑しながら、隠された電子ロックにカードキーをかざす。

ピピッ、カシャアン。

重厚な解錠音と共に、ボロボロの(に見える)ドアが開く。

「さ、どうぞ。汚さないように靴は脱いでくれよ」

「は、はい……お邪魔しま……ひゃっ!?」

一歩踏み入れた瞬間、エルミナの視界は「廃屋」から「未来」へと強制転移させられた。

純白のクロス壁。

顔が映るほど磨き上げられたフローリング。

そして、頭上から降り注ぐLEDダウンライトの、太陽より純粋な光。

「な、何ですかあああああ!? ここはあああああ!?」

エルミナの絶叫が玄関ホールに響き渡った。

「め、目が! 私の聖なる眼が眩むほどの光! まさかここは天界の『至高天エンピレオ』!? いや、それ以上に整っています! 埃一つない!」

パニックになり、翼をバタバタさせて壁に激突しそうになるエルミナ。

「ま、まぁ落ち着いて。とりあえずリビングへ行こう」

「ふふ~ん。驚いた? これがマモルの魔法……じゃなくて、スキルなんだよ」

フィリアが慣れた手付きでエルミナの手を引き、スリッパを履かせてリビングへと連れて行く。

   ◇

リビングのソファに、借りてきた猫(天使)のように縮こまって座るエルミナ。

彼女の目は、巨大な4Kテレビや、静かに冷気を送るエアコン、そしてシステムキッチンを行き来し、完全にキャパシティオーバーを起こしていた。

「……信じられません。下界にこのような文明が存在するなんて……。天界の技術局に見つかったら、戦争になりますよ……」

ブツブツと呟く彼女の前に、真守がカップを置いた。

「はい、紅茶。砂糖とミルクは?」

「え? あ、い、いえ……頂けるだけで……」

真守が出したのは、ポイント交換で取り寄せた『アールグレイ』のティーバッグで淹れた紅茶だ。

ソーサーには、スティックシュガーとポーションミルクが添えられている。

エルミナは震える手でカップを持ち上げた。

公園の水道水や、雨水ばかり飲んでいた彼女にとって、その透き通った琥珀色の液体は宝石のように見えた。

香りを嗅ぐ。ベルガモットの柑橘系の香りが、鼻腔を優しく撫でる。

「いただきます……」

一口、含んだ瞬間。

カッッッ!!!!

エルミナの脳内で、天使のファンファーレが鳴り響いた。

「おいしいいいいいいいいいっ!!!」

彼女は翼を全開に広げ(バサァッ!)、天井を仰いだ。

「な、なんですかこの芳醇な香りは! 渋みが全く無く、高貴な香りが口いっぱいに……! 天界で飲む『ネクタル』より遥かに美味しいです!」

「そりゃどうも。ただのスーパーで売ってる紅茶だけどな」

真守はスティックシュガーの封を切り、サラサラとカップに入れた。

「ああっ! そ、それは『砂糖』!? そんな宝石の粉のような純白の砂糖を、惜しげもなく!?」

「甘いのが好きなら入れてみな。ミルクもな」

エルミナは恐る恐るミルクと砂糖を混ぜ、再び飲んだ。

その瞬間、彼女はとろけるような顔をして、ソファに沈み込んだ。

「はうぅぅ……幸せですぅ……。もう公園の鳩と豆を取り合わなくていいんですね……」

その目尻には、安堵の涙が浮かんでいた。

よほど過酷なサバイバル生活だったのだろう。

「ふふっ、良かったねエルミナちゃん。マモルのお茶とお料理は世界一なんだから!」

「はい……フィリア様のおっしゃる通りです。ここは楽園エデンです……」

   ◇

一息ついたところで、今後の話し合いになった。

「で、エルミナさん。これからどうするんだ? 天界に帰る方法は?」

「……通信機も財布と共に盗まれました。自力で飛んで帰るには魔力が足りませんし、何より……」

エルミナは恥ずかしそうに俯いた。

「……こんな無様な姿で帰ったら、聖騎士団の笑いものです。『下界の詐欺師に身ぐるみ剥がされました』なんて言えません!」

「プライドが高いんだな……」

「それに! 私はこの『館』に興味を持ちました!」

エルミナはキリッとした顔(口元に紅茶の泡がついているが)で真守を見つめた。

「マモル様。貴方は神気に似た不思議な力をお持ちです。そしてこのオーパーツのような家具たち……。私は聖騎士として、この場所が悪用されないよう、監視する義務があります!」

「……要するに?」

「ここに置いてください! 掃除でも洗濯でも、魔物退治でも何でもします! ご飯と甘いお茶さえ頂ければ、文句は言いません!」

エルミナはテーブルに身を乗り出し、上目遣いで懇願した。

「お願いしますぅ! もう野宿は嫌なんですぅ! あのフカフカのお布団で寝てみたいんですぅ!」

真守はため息をついた。

正直、食い扶持が増えるのは痛い。

しかし、彼女を助けた時に貰った『5万ポイント』はデカい。当面の家賃分ローンは確保できたし、天使族が家にいれば、魔除けや結界の強化にもなるかもしれない。

「……はぁ。分かったよ。部屋は余ってるから、好きに使えばいい」

「本当ですか!? やったぁぁぁ!!」

エルミナは飛び上がって喜び、勢い余ってリビングの照明に頭をぶつけた。

「あ痛っ! ……あ、ありがとうございます! 我が剣と翼は、今日から貴方のものです、マスター!」

「マスターはやめろ。真守でいい」

「じゃあ、エルミナちゃんは私の妹分だね! いろいろ教えてあげる。まずはこの『洗濯機』と『ドライヤー』の使い方からね!」

「はいっ! フィリアお姉様!」

こうして、加藤真守のマイホームに、新たな居候――

『元・聖騎士、現・食いしん坊ポンコツ天使』のエルミナが加わった。

フィリア、エルミナ、そして真守。

賑やかさを増した「最強のマイホーム」での生活は、ますますローンの支払いを加速(=出費増)させていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ