Körpertemperatur
「……花菜さん?」
甘い香り、柔らかな重み。いつもの景色の中にある、見覚えのない姿。いつも張り詰めてばかりだから、よほど疲れてたんだろうな。それにしても、寄りかかって寝るなんて、なんというか、らしくない。あなたから一緒に観たいなんて誘ってくれた映画も、今は垂れ流されて入ってこない。
「しょうがないな、もう」
あなたのほうに体を向ける。……力の抜けた寝顔をまじまじと見てしまうの、少しずるいことしてるな。ブランケットを掛けてあげようとして、体に触れてしまうのも、その手で、軽く髪をぽんぽんと撫でてしまうのも。
「頑張りすぎちゃ駄目だよ、……なんて、あたしに言われてもか」
普段の仕事をこなしていくだけでも目が回るのに、別の先生が観てるクライアントのカルテも見直して、他の資格の学習もして。そんなので酷使した体を、休みの日は割とぐったりしたように休める。教授にも言われたっけ。あたしみたいなお節介は、この仕事には向いてないって。そんなことないって思ってたけど、仕事についてみると、毎日思い知らされてばかりだな。
「案外似た者同士だよ、あたし達」
……頼もしくてかっこいいって言ってくれるけど、中身はさして変わらないよ、あたし。……肩肘張って、向いてないなんて思いながら目の前の仕事を精一杯やってるだけ。むしろ、あなたのほうがかっこいいのに、……なんて言っても信じてくれないか。うちのハムスターを思い起こすくらいかわいいのに、他の誰かのためにひたむきに頑張り続けてるとこ。
「ん……」
ゆるく閉じた瞼が震える。まだぼんやりとしてる目で見つめてきて、ばっと居住まいを正す。頬を赤らめてうつむいてるとこ、やっぱり小動物みたいな愛らしさがある。
「ごめんなさい、わたし……っ」
「いいって、……あたしも悪かったな、起こしちゃって」
かわいかったから、なんてのは心の内に秘めておく。心の中にある、微妙な熱が燻っているのがわかる。青臭くて照れくさいようなそれに、まだ慣れない。そんなものが似合うような歳だったときですら、告白に流されるままに付き合って、出会うことが少なくなると自然に離れての繰り返しだっていうのに。
「いえ、……その、嬉しかった、……です」
「ん、……そうか」
真っ赤にした頬で、……たぶん、精一杯の甘えた言葉。動きの裏の感情が分かってくるようになって、それに上手く返せなくなる。返事よりも、言い訳のようなものを考えてしまう。仕事柄そんなものはむしろ避けていたくせに。一体どうして、こんな事になってるんだろう。映画の残り時間は、思い返すのに足りるだろうか。ティーカップのぬるいハーブティーを一口入れて、ぬるい思案に意識を溶かす。




