3-2【告白】※Another side
すみません、投稿の予約をすっかり忘れていましたi
ゼウス様誕生前夜、知恵の神である私メーティスはレア様に呼び出されていました。
「メーティス、参りました」
「いらっしゃい、よく来てくれましたね」
柔らかな声に迎えられてレア様の寝所に足を踏み入れました。萌葱色の瞳を細めて、声に違わぬ優しい笑みを浮かべるレア様のお顔にはそれでもどこか影がありました。当然です、もう既に五柱もの御子を亡くされているのですから。それでも光を失うことはなく、強い芯を持ってただ真っ直ぐ前を見つめておられました。
「時間がないので単刀直入に言いますね」
「はい」
先ほどの微笑みからは打って変わり、レア様の緊迫した面持ちに私も神妙に頷くことしかできませんでした。レア様は一旦躊躇うように口を噤まれてから、用心深く周囲を見渡し、声を潜めて告げます。
「ヘスティアは生きています」
「え……?」
一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。思わず声が漏れてしまいましたが、そんな私に構うことなくレア様は続けます。
「ヘスティアだけではありません、デメーテルも、ヘラも、ハデスも、ポセイドンも皆、私の子は生きています」
衝撃的な告白でした。瞬きするのも忘れてしまうほどに見開いた目でレア様を見つめます。レア様は静かに語り始めました。
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クロノス様が予言を気にしているのは、ヘスティアを身籠った時から分かっていました。だから私は産まれてすぐの我が子達に加護を装飾品として身に付けさせたのです。ヘスティアにはペンダントを、デメーテルには髪紐を、ヘラには指輪を、ハデスにはブレスレットを、ポセイドンにはピアスを、そして今度産まれてくるゼウスにはアンクレットを。ただ加護を授けるよりもより強い加護を、と形にして渡しました。
加護は子ども達が生きている限り続きます。そしてそのどれもが消えておらず、未だに加護は5つ微かにではありますが感じ取れます。4つの加護はクロノス様のお腹から、微かなものですが4つが合わさってそれなりに感じ取ることが出来ます。近くにいる大きな加護の陰に隠れて私も最近まで気付いてはいませんでしたが、それ以外の1つの気配もほんの微かに感じ取ることが出来るのです。いくら自分の加護といえど本当に微かなものですから辿ることは出来ません。ですがきっと私の加護を感じた精霊達が助けてくれたのでしょう。
ですが、それはクロノス様も気付いています。僅かに未だに感じられる我が子の気配に。ヘスティアが炉の女神だと断言するくらいにはその存在を感じ取っているようです。だからこそ、今血眼になって『帰らずの森』を探しているのでしょう。漏れ聞いた配下の報告では、ヘスティアも追手に気づいているのか、拠点を転々として逃げ隠れているようです。一度それらしき神を見つけたとの報告が上がりましたが、それも神と同様の身体を手に入れた精霊だったと聞きます。精霊に愛されているのでしょうね、あの子は炉の炎のような暖かな瞳をしていましたから。
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レア様は寂しそうなそれでいて溢れんばかりの愛情が滲む瞳で微笑まれました。私ができることと言えば、ただ黙ってレア様のお話を聞くことのみ。
「夜が明ければ私はこの子……ゼウスを産むことでしょう。いくら生きているとはいえ、もう産まれてすぐの我が子を飲み込まれてしまうのは耐えられません……」
大きなお腹を愛おしげに撫でながらも、その表情は哀しみと怒りで彩られます。そして決意を決めたような真っ直ぐな視線に見据えられました。
「明日、ゼウスを産んだあとクロノス様にはおくるみにくるんだ石を渡します、我が子を飲み込まれた母の精一杯の抵抗です」
いたずらっぽく微笑むレア様は、我が子を想う強い母の顔をしていました。圧倒される私にレア様はさらに続けます。
「そこであなたにお願いがあるのです」
「……お願い、ですか……?」
衝撃的な話の数々にすっかりカラカラになってしまった喉で、掠れた声を絞り出すように答えます。私に何ができるというのでしょうか。
「明日のクロノス様への謀りですが、ヘスティアの件でいつも以上に慎重になっているクロノス様に成功するかは分の悪い賭けとなります。もし、謀りがバレてしまえば私もゼウスも無事では済まないでしょう……」
「そんな……」
「なので、あなたにはヘスティアを探してほしいのです。ゼウスまで飲み込まれてしまえば、きっとあの子はクロノス様の唯一残った“我が子”で、私達の希望となる子だから」
「ですが、どうやって……!!」
クロノス様の配下の方達が探しても見つからないヘスティア様です。とても私一柱で見つけられるとは思えません。困ったように眉を下げる私にレア様は微笑んで歌うようにさらに言葉を紡ぎます。
「大丈夫、知恵の神であるあなたであれば精霊の言葉も分かるでしょう?精霊が教えてくれますよ、あの子達は悪戯好きですが、嘘はつかないので」
「そんな……できるでしょうか……」
確かにニンフの言葉は分かりますが、それでも自信が持てるはずもなく、視線を伏せて小さく呟く私にレア様は穏やかに、しかし力強く頷きました。
「えぇ、大丈夫、あなたならできます。頼みましたよ、私の共犯者」
そうしてレア様はヘスティア様の捜索を私に託し、ゼウス様を産みました。ゼウス様にアンクレットを授けて、宣言通り石を渡したレア様でしたが、予想した通りクロノス様には見抜かれて、その怒りを買い、タルタロスへと追放されてしまったのです。そうしてゼウス様は飲み込まれ、ヘスティア様が最後の希望となりました。
つまり、私がヘスティア様を見つけられるかが、この世界の運命を握る鍵になってしまったのです!




