3-3【捜索】※Another side
それからというもの、実質行動の選択肢などない私はとりあえず『帰らずの森』に来ていました。
「来てみたは良いものの……」
広大な森を前に私は途方に暮れました。いくらニンフが教えてくれるといっても、こんな広い森で一柱が一柱を探すというのはあまりに無理があるのではないでしょうか。
森は昼間でも薄暗く、鬱蒼とどこまでも続いており、遠くからは獣の唸る声が聞こえてきます。今のところニンフは見当たりません。いくら神といえど、こんなところで赤ん坊が一柱、生き延びることなどできるのでしょうか?
思考は知らず知らず後ろ向きになり、今にも心が折れそうになってしまいます。そんな自分を叱咤して、奮い立たせながらも恐る恐る森へと足を踏み入れました。
闇雲に探しても……とは思いましたが、手掛かりがこの森にいるかもしれないという情報のみである今、ひたすらに歩いて探すしかありません。獣や魔物と遭遇しないように音や気配には十分注意しながら進んでゆきます。これだけ生い茂った森であれば、もっとニンフがいてもいいように思いますが、どういうわけか未だに全く見かけません。
どのくらい歩いたのでしょうか。再び、これはやっぱり無理があるのでは……と心が折れかけた時にようやくニンフを見つけました。先ほどまで全く出会わなかったのが嘘のように、木や草、花など多種多様なニンフが飛び交っています。私は藁にもすがる思いで声を掛けました。
「あ、あの!」
❲なにー?❳
❲だれー?❳
❲女神だー❳
❲敵ー?❳
声をかければわらわらと集まってきて次々に答えてくれます。友好的に見えて、こちらの真意を見定めるような声が聞こえて、空気もどこか緊張感のあるもので慌てて名乗りをあげます。
「私、大地母神レア様の使いで参りました、メーティスと申します」
❲レアさまー!❳
❲レア様だって!❳
❲メーティス?❳
❲どうしたのー?❳
レア様の御名を出せば、先ほどの空気からは一変し、本当に友好的な柔らかな空気になりました。ゼウス様をご出産される直前まで共にいた私にまだ微かに宿るレア様の気配を感じ取ったのかもしれません。この雰囲気でなら質問しても答えてもらえるのではなかろうかと、私は一抹の望みと、知らなくても仕方ないという諦めを持って口を開きました。
「レア様の御息女、ヘスティア様がこの森にいらっしゃるとお聞きしました。ご存知ありませんか?」
❲ヘスティア?❳
❲だれー?❳
❲知らなーい!❳
❲いるよー!❳
「そうですよね、やっぱりご存知……えっ!?ヘスティア様いらっしゃるんですか!?」
思わず声を張り上げてしまったのも無理はないでしょう。だって、まさかこんなあっさり情報が出てくると思わないじゃないですか。驚く私など気にも留めずニンフ達は口々に教えてくれます。
❲うん、いるよー❳
❲北の方にいる❳
❲違うよ、西だよ❳
❲今日は南の湖のほとりにいたよー❳
しかし、情報がてんでバラバラです。これが悪戯好きと言われる所以かとも思いましたが、レア様がニンフは嘘をつかないとおっしゃっていましたし、ヘスティア様は逃げ隠れているともおっしゃっていたので、全て偽りはないのでしょう。きっとそれぞれヘスティア様を見かけた場所を教えてくれたのだと思います。……まぁ、中には敢えて他のニンフとは違う場所をあげている子もいそうですが。
「……では、今日見かけたという南の湖のほとりに案内していただけますか?」
❲わかった!❳
❲いいよー❳
❲おいでー❳
❲ついてきてー!❳
「ありがとうございます!」
そう言ってニンフ達はみんな同じ方向に羽ばたいてゆきました。ここで別々の方向に飛んでいかれるなんて悪戯がされなかったことに安堵しながら、ニンフたちの後を追います。流石というべきは、ニンフたちは獣や魔物のいる場所を熟知しているようで、進む道に獣も魔物も出てこないどころか気配すら感じませんでした。
まぁ、その分道なき道を行くおかげでついていくのも一苦労だったわけですが。
息を切らし、時折ニンフ達に待ってもらいながらもしばらくなんとかついていくと開けた場所へと出ました。そこには大きなエメラルドグリーンの美しい湖があり、ニンフの飛び交う、清らかな空気の神聖ともいえる場所でした。
よく見てみると簡易結界のようなものが張られているようで、それが魔物や獣を寄せ付けていないのだとわかります。湖のほとりには火を焚いたような跡があり、きっとそれがヘスティア様がいた証なのでしょう。レア様も炉の神とおっしゃっていましたし、きっと炉を囲む家庭の神でもあるのだと思われます。だからこそ、ヘスティア様が起こしたであろう炎の近くには簡易結界ができ、ニンフ達ものびのび過ごせるわけです。
しかし、その肝心のヘスティア様ですが……
「……ヘスティア様いませんね?」
❲あれー?❳
❲いないね❳
❲ヘスティア、どこー?❳
❲いなーい❳
……私のヘスティア様を探す旅はまだまだ始まったばかりです。
次回からヘスティア視点に戻りますv




