彼女の戦闘は一進一退
ダンジョン・王座の間。
空間の頂に広がる銀の巣は、まるで神殿の天蓋のようだった。
その中央に、少女――エルザミナは座している。
彼女の足元には、繭のような塊。
中で静かに眠るのは、無垢なる存在、フラウ。
「フラウを巻き込むつもり?」
怒気をはらんだ声が、地を割るように響いた。
声の源に立っていたのはアメリア。
その傍らに佇むは、彼女自身の分身たち。
すでに炎を身に纏っている。
「ボクがフラウを巻き込むような戦闘、するはずないでしょ?」
エルザミナは語気を荒げる。
フラウの繭は、最上部の一角に移されている。
誰の攻撃も届かない、糸の砦の奥。
最も強固で安全な場所だった。
アメリアの怒りは収まらなかった。
激情を噴き出すように、彼女は分身たちに命じる。
「燃やしなさい」
分身たちが火炎を放ち、蜘蛛の巣に向かって吐き出す。
その瞬間、巣の至るところに現れた小型の繭が熱に反応し破裂する。
内部に仕込まれていた毒液が一帯に広がり、炎を鎮火。
高熱で蒸発せず、逆に火を呑み込むように作用する。
一体の分身が毒液に触れ、泡のように崩れて散った。
アメリアは目を細める。
「火が……効かない?」
空中で糸を紡ぎ続けるエルザミナ。
巣の密度は増していき、繭の数も倍増する。
そこに仕込まれているのは毒液だけではないだろう――そう予感させる圧力。
アメリアは沈黙し、分身を消した。
「この力は無様だから、使いたくなかったのだけど」
そんな言葉と共に、新たな分身を生み出す。
炎ではなく
冷気を纏った、新たな分身。
目を瞑り、肌も髪も青く、呼吸ひとつせずにただ静かに立つ。
その目が開いた瞬間、空気が一変した。
超スピードで、氷の分身が宙を舞う。
彼女に触れた蜘蛛の糸が、凍った。
繭が砕け、破片が宙を舞う。
毒液は凍り、機能を失う。
「……氷属性かっ」
エルザミナが眉をひそめる。
その傍らに、氷の分身が肉薄していた。
氷の破片に紛れて、接近していたのだ。
咄嗟にエグザミナは糸で防御するも、その糸は即座に霜付き砕ける。
そして、冷気はそのまま、天高くにある繭にまで伸びようとしていた。