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彼女はダンジョンのボスとなる

エルザミナは教室の中心にふんぞり返っていた。


蜘蛛脚を広げ、背もたれ代わりに絡めた机の上。

その膝に、いつものようにフラウが座っている。


フラウは穏やかな表情で、食堂で買った焼きたてのパンをちぎっていた。

ふわりと香る甘い匂いが、静かに広がる。


「ん、美味しい? 焦げてない?」


「……ん」


小さくうなずくフラウに、エルザミナの顔が蕩けるように緩む。

その光景を、周囲の生徒たちは誰も口を挟めずに見ていた。

彼女たちはもう――エルザミナの眷属なのだ。


その支配は戦いではなく、一度“捕食の圧”を知った者の恐怖による屈服だった。

動けず、逆らえず、だが完全に壊されるわけでもない。

蜘蛛の糸のように絡めとられ、吊られ、従っている。

そして今。


「ふーん、ダンジョン作成ねえ」


フラウの頭を撫でながら、エルザミナは面倒そうに口を開く。


「ボクがボスでいいから、テキトーに作っといてよ。王室っぽい感じで」


命令というより“気まぐれな提案”。

だが、生徒たちは即座に動き出した。


誰も逆らえない。


そして始まった、奇妙なダンジョン作成。

誰も罠を仕掛けようとしなかった。

迷宮も不要だった。


「王室」をイメージ。

中央には二座の玉座――フラウとエルザミナのための椅子。

四方には豪奢な帳と、警備にあたる“衛兵役”の眷属たち。

豪華さと異様な沈黙が共存する、一室構成の王の間。


最後に、これらの構造情報と眷属配置データをダンジョン核に入力。

淡い魔光が教室の空間を裂き、黒縁の鏡のような転移口が現れる。


「おー、入口、出たね。おもしろーい」


フラウの手を取って、エルザミナが笑いながら入口へ向かう。

その姿は、まるで舞踏会へ出かける恋人同士のように見えた。


次の瞬間、彼女たちの姿が鏡の向こうへ消える。

それは、ダンジョンの“ボス”がエリアへ入場したことを意味する。


【ダンジョン核:状態更新】


【配置:完了】


【ボス:入場確認】


【ダンジョン:攻略可能】


黒い鏡の表面に、赤文字の魔法構文が浮かび上がる。

それは静かに、確かに告げていた。

戦いの始まりを。


遠く離れたS級教室で、その報せを受けた少女が、立ち上がる。


「始まったのね、フラウ」


アメリアの瞳が細くなる。

“制度に則った侵略”の舞台は、今や整った。

あとは――奪うだけ。



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