彼女はS級を掌握する
魔導塔にある高位教室。
S級ランクの講義室の一つにアメリアは居た。
講義室は、静かだった。
実力者ばかりが揃うその空間には、派手な喧嘩も、馴れ合いの会話もなかった。
アメリアは――退屈していた。
「つまらないわね……」
授業の内容は、基礎魔術の応用、対集団戦術、政治的立場と交渉戦略。
確かに高度ではある。だが、刺激がない。戦慄がない。
そして、そこにフラウの姿がない。
そのすべてが、彼女にとって「無意味」だった。
S級の他のクラスもこの程度なのだろうか。
もういっそ、全部ぶち壊してやろうか。
凶暴な妄想を抱くアメリア。
だが、講義の内容の一つが、その妄想を打ち砕いた。
〈実技:ダンジョン構築〉
「――この学園では、生徒がダンジョンを作ることが許されています」
教師の説明は簡潔だった。
ダンジョンの骨格は学園が用意する。
だがその内容、構造、配置される魔物は、生徒の意思で決まる。
自らの眷属、契約した者、あるいは“屈服させたクラスメイト”を戦力に組み込むこともできる。
さらに。
作られたダンジョンは他クラスの生徒によって攻略する事が可能なのだ。
「攻略成功時、守護者として配置されていた戦力・魔力は、奪取可能です」
その瞬間、アメリアの脳裏で明確な光が弾けた。
(フラウは、エルザミナの“眷属”として登録されるだろう)
(ならば、そのダンジョンを攻略すれば――合法的にフラウを奪える)
そのロジックは鮮やかで、完璧だった。
問題は一つだけ。
このクラスの生徒たちは、まだ統率されていない。
魔族たちは誰も彼も自分を頂点だと信じており、同盟など絵空事に等しい。
だが、アメリアは立ち上がった。
教室の中心に立ち、宣言する。
「このクラスのダンジョンは、私が指揮する」
「貴方たちは、すべて私の傘下に入りなさい」
一瞬、沈黙が支配した。
そして笑い声が広がる。
「冗談もほどほどにしなさいよ、お嬢様」
「傘下? 滑稽ね」
「力ずくでやる気?」
アメリアは一歩、前に出た。
「すぐ終わるわ。時間はとらせない」
その瞬間、魔力が爆ぜた。
床が割れ、椅子が砕ける。
金髪が翻り、目の前の魔族が吹き飛ばされる。
さらに三体の分身体が同時に展開され、背後から各要点を押さえる。
それぞれが完璧な魔力支配領域を構築し、逃げ場を失わせる。
「さて、次は誰?」
五分後、教室は沈黙していた。
残された生徒たちは、ひとり残らず跪いた。
「いい子ね」
アメリアは椅子に腰かけ、クロスした足を組み替える。
そして、戦略資料に目を通しながら、静かに呟いた。
「フラウ。もうすぐ会いに行くわ」
「この学園のルールに則って、正々堂々と、貴女を奪いに行く」
――こうして、血と策略のダンジョン攻略戦は幕を開ける。
それは、制度に守られた略奪戦争。
そして、少女の笑顔を奪い合う、正当なる侵略の始まりだった。